家計調査に基づく贈与金のデータから、日本における地域間・世代間の家族支援のあり方が浮き彫りとなっている。大阪市や盛岡市など都市部で贈与金が急増する一方、地方都市では減少傾向が目立つ。世代間の経済格差やライフイベントの集中、都市構造の違いが要因と考えられ、今後は高齢化や人口減少を背景に更なる二極化が進むと予想される。
贈与金の家計調査結果
贈与金の多い都市
贈与金の少ない都市
これまでの贈与金の推移


詳細なデータとグラフ
贈与金の現状と今後
贈与金とは、主に親族間、特に親から子への現金等の贈り物であり、進学・結婚・出産・住宅取得といったライフイベントの資金援助として頻繁に発生する。家計調査では、この「贈与金」を家計の臨時収入の1部として記録しており、世帯間の経済的つながりや地域特性を読み解く重要な指標となっている。
贈与金のこれまでの動向
2000年以降の家計調査を振り返ると、贈与金は全体的には横ばい~微減の傾向をたどってきた。これは、若年層の結婚・出産の遅れ、非正規雇用の増加、高齢者世帯の資産減少などにより、ライフイベントにおける金銭的援助の必要性や可能性が変化してきたことに起因している。
1方、コロナ禍(2020年~2022年)では、親族間での1時的な金銭援助が増加したという報告もあり、家計の防衛的な贈与という新しい傾向も生まれている。
都市間格差の背景
今回の最新データで、1世帯あたりの贈与金が最も多かった大阪市(19,080円)や盛岡市(17,660円)は、前年同期比でも400%以上の急増を見せている。1方で、浜松市(515円)や岐阜市(966円)などは大幅な減少を記録しており、地域間格差は著しい。
要因分析:
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都市部(大阪・盛岡など)では、教育・結婚・住宅取得などのイベントが集中しやすく、親からの援助が発生しやすい。
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地方都市では、世帯収入自体の減少や、高齢親世代の生活防衛意識が強く、贈与余力が乏しい可能性がある。
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伝統的な地縁・血縁文化の残る地域では、定期的な援助よりも物納や共同生活など別形態の支援が主流で、贈与金として数値化されにくいという事情も考えられる。
世代間の特徴と課題
若年層:
住宅購入や子育てに関わる高額な支出に対して、親世代からの支援が期待されるが、受け取れるのは1部に限られる。特に非正規雇用や単身世帯の増加が、支援の非対称性を深めている。
高齢層:
年金に依存する高齢者が増加しており、余剰資産から贈与する余力が減っている。高齢者が将来に不安を感じて支出を抑える傾向は、結果として贈与金の減少に直結している。
贈与金増加都市の共通点
贈与金が増加している都市には、以下の共通点が見られる:
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都市再開発や経済活性化によって若年層の定着が進んでいる
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進学・就職・結婚年齢層の人口比率が高い
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相続対策や贈与税非課税制度(暦年贈与・教育資金贈与)を活用する文化が浸透している
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地方移住促進策やUターン支援金など、公的支援との相乗効果
これらが、贈与金の「1時的な急増」につながっているケースも多い。
今後の展望と政策的課題
今後、贈与金は以下のような方向で推移すると予測される:
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2極化の進行:富裕層は節税目的で贈与を活用する1方、1般層では贈与余力がさらに減少する可能性がある。
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税制の変化:相続税・贈与税の1体化議論が進んでおり、課税強化が行われれば、贈与金の抑制要因となる。
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金融リテラシーと世代間教育:贈与金を「消費」ではなく「資産形成」や「教育費」として使う意識づけが求められる。
政府や自治体が贈与税制や金融教育を強化することで、贈与の「目的化」が進めば、より健全な世代間支援が実現できる可能性もある。
おわりに
贈与金という1見些細な項目の変動は、都市の構造や世代間の関係、家族のあり方を映し出す鏡である。都市部と地方、若者と高齢者、それぞれの立場における「援助」の意味を改めて捉え直し、持続可能な支援関係を築くための視座が今、求められている。
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