補習教育費の都市間格差と今後の動向―家計調査で見る地域別傾向

教育



家計調査によると、二人以上世帯の補習教育費は平均2797円だが、都市ごとに大きな差が見られる。宇都宮市や山形市などでは1万円を超える支出があり、前年から大幅に増加。一方で京都市や大分市では数百円にとどまり、減少傾向にある。こうした動向は、地域の教育環境、世帯所得、進学意識の違い、世代間の価値観などが背景にある。今後は少子化と教育費の集約化、地域間格差の拡大、ICT教育の普及が補習教育費に影響すると予測される。

補習教育の家計調査結果

補習教育の多い都市

2025年3月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名称 平均 宇都宮市 山形市 仙台市 水戸市 高知市 新潟市 さいたま市 横浜市 那覇市 松江市
最新値[円] 2797 12670 8878 7626 7204 5855 5370 5347 4837 4672 4590
前年月同比[%] +5.995 +291.4 +292.3 +137.6 +137.4 +921.8 +129.7 -30.68 +109.4 +160.1 +448.4

補習教育の少ない都市

2025年3月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名称 平均 福島市 青森市 京都市 甲府市 大分市 奈良市 佐賀市 北九州市 徳島市 盛岡市
最新値[円] 2797 0 0 260 271 321 439 486 519 564 568
前年月同比[%] +5.995 -100 -100 -80.84 -88.59 -91.21 -72.18 -80.13 +73.58 -86.12

 

これまでの補習教育の推移

補習教育の推移
最新のデータ

 

詳細なデータとグラフ

 

補習教育の教育現状と今後

補習教育とは、学校外での学習支援を目的とした教育活動で、塾、家庭教師、通信教育などが該当する。2000年代以降、受験競争の激化や中学受験の1般化に伴い、都市部を中心に補習教育への支出は徐々に増加してきた。近年では、小学生段階からの中学受験準備が補習教育費を押し上げている要因となっている。


都市間にみる補習教育費の格差

2025年3月時点で、宇都宮市(12,670円)、山形市(8,878円)、仙台市(7,626円)などが高額支出を記録しており、全国平均を大きく上回っている。特に宇都宮市は前年比+291.4%という急騰が目立つ。これは、地域における中学受験や高校進学に対する強い意識や、塾の拡充、市内の教育競争の高まりが関係していると考えられる。

1方で、京都市(260円)や甲府市(271円)などは平均を大きく下回っており、補習教育のニーズが限定的なことや、地元公立校への信頼、家庭の教育方針の違いが影響していると推察される。特に京都は歴史的に学力の高い地域だが、地元志向が強く、補習よりも学校教育重視という価値観が根づいている可能性がある。


世代間にみる支出傾向の違い

補習教育費の変化は、親世代の教育観の変化とも密接に関わっている。30代~40代の親世代は「自分たちが塾に通った経験」が1般化しており、自分の子どもにも同様の環境を用意する傾向がある。その1方で、団塊ジュニア以前の親世代は「学校中心の教育」を重視する傾向があり、補習教育に慎重だった。

近年では、教育の「早期化」や「個別最適化」への志向が高まり、家庭の所得が許す限り、小学校低学年からの補習教育導入が増えている。この傾向は、共働き世帯が増え、教育をアウトソースする意味合いもある。


補習教育支出が増加する都市の特徴

急増している都市には、いくつかの共通点が見られる。

  1. 受験競争の激化:宇都宮市や仙台市などは、公立高校入試が難関化しており、補習の必要性が高まっている。

  2. 人口流入の増加と教育インフラの拡充:山形市や水戸市は、近年塾業界の進出が活発で、選択肢が増えたことが支出を後押し。

  3. 行政支援の不足と教育費の民間依存:補習教育は私費で賄われるため、公的支援が限定的な都市では家庭負担が増しやすい。


補習教育支出が減少・停滞する都市の背景

支出が極端に低い都市では、以下の要因があると考えられる。

  1. 人口減少による教育産業の衰退:地方都市では塾の廃業や統合が進み、選択肢そのものが減っている。

  2. 家庭の経済的制約:特に若年層の非正規雇用比率が高い地域では、補習教育費を出す余裕が限られている。

  3. 地域文化や教育観:佐賀県や奈良県などでは「地元の公教育を信頼する」傾向が強く、補習を選択しない家庭が多い。


今後の動向と政策的課題

少子化と1人当たり支出の集中化

今後、出生数が減少する中で、家庭が1人の子どもにかける教育費が増える可能性がある。特に中所得~高所得層では、補習教育への投資は今後も拡大が予想される。

地域間格差の固定化

都市部では補習教育が前提化し、地方では選択肢すらない「教育の機会格差」がさらに広がる。これにより、学力や進学先の偏在が進行し、地域社会の分断要因にもなりうる。

ICT教育の普及と転換

AI・オンライン教材の普及により、物理的な塾通いが不要となる可能性があり、都市・地方の差を縮小する契機にもなりうる。今後は補習教育の質や手段の選択が鍵となるだろう。


まとめ

補習教育費は、単なる家計支出項目ではなく、家庭の教育観、地域の進学文化、社会の教育政策を映し出す鏡である。今後の政策やテクノロジーの進展により、その在り方は大きく変化する可能性があるが、まずは地域間の格差是正と、すべての子どもに対する公平な学習機会の確保が、喫緊の課題である。

 

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