家計調査の住宅ローン支払い世帯データを基に、都市ごとの支払い割合や増減の傾向を分析。新潟市など地方中核都市で高水準の一方、那覇市や神戸市では低下傾向が目立つ。世代間では若年層の借入離れが進む中、地方では住宅取得とローン支払いが活発化。今後は金利動向や都市部の賃貸志向、人口構造変化が影響を与える見通し。ローン負担の地域格差とその背景を丁寧に解説する。
住宅ローンを支払う世帯の家計調査結果
住宅ローンを支払う世帯の多い都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 全国 | 新潟市 | 山形市 | 堺市 | 青森市 | 岐阜市 | 鹿児島市 | 大阪市 | 佐賀市 | 秋田市 | 松江市 |
最新値[%] | 40.9 | 65.8 | 55.9 | 55.7 | 54.5 | 54.4 | 54 | 54 | 53.1 | 52.1 | 51.7 |
前年月同比[%] | -2.387 | +54.82 | +23.67 | +6.095 | +8.35 | +49.45 | +31.39 | +37.4 | +8.811 | +17.87 | +42.42 |
住宅ローンを支払う世帯の少ない都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 全国 | 那覇市 | 神戸市 | 甲府市 | 徳島市 | 札幌市 | 高松市 | 宮崎市 | 東京都区部 | 福井市 | 富山市 |
最新値[%] | 40.9 | 13.5 | 21.9 | 24 | 24.7 | 28.3 | 28.4 | 28.7 | 28.7 | 31.4 | 31.5 |
前年月同比[%] | -2.387 | +8 | -48.35 | -49.69 | -28.2 | +23.58 | -24.27 | -4.333 | -23.87 | -2.181 | -12.01 |
これまでの住宅ローンを支払う世帯の推移


詳細なデータとグラフ
住宅ローンを支払う世帯の現状と今後
2025年3月時点での全国における住宅ローン支払い世帯の割合は40.9%。これは全世帯の4割強が住宅取得に際して金融機関からの借入を活用していることを示しています。家計調査が対象とするのは「勤労者世帯」であり、ある程度の収入があり住宅取得を前提とした世帯の割合を反映しています。
この比率は、コロナ禍後の住宅取得需要の変化や、低金利政策、さらには地方移住やリモートワークの影響も受け、地域間の格差を広げながら変動してきました。
住宅ローン比率が高い都市の特徴
最も高かったのは新潟市(65.8%)で、前年同期比+54.82%という驚異的な伸びを示しました。他にも山形市(55.9%)、堺市(55.7%)、青森市(54.5%)など、地方中核都市で高水準が続いています。
これらの都市に共通するのは以下の要素です:
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土地価格が比較的安価で、持家取得がしやすい。
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共働き世帯が多く、住宅ローン返済能力が高い。
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地方創生や移住支援制度が進んでおり、新築・中古住宅取得を促進している。
さらに、岐阜市(+49.45%)、松江市(+42.42%)などの急増も注目に値します。これらの都市では、建築費の上昇を見越した早期取得や、中古住宅リノベーション市場の拡大などが背景にあると見られます。
住宅ローン比率が低い都市の傾向と課題
一方、最も低かったのは那覇市(13.5%)で、続いて神戸市(21.9%)、甲府市(24.0%)、徳島市(24.7%)などが挙げられます。
この低水準の背景には以下が考えられます:
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賃貸志向の強さ:特に那覇市などの都市部では、単身世帯や観光業に従事する短期雇用の多さが影響。
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地価・建築費の高騰により、住宅取得をあきらめる層の増加。
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高齢化や世代交代の停滞により、新規住宅取得のニーズが弱い。
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特に神戸市や甲府市では前年度比で大幅な減少(-48.35%、-49.69%)となっており、急激な住宅市場の冷え込みが示唆されます。
世代間の特徴とローン取得行動の変化
住宅ローン取得の世代別傾向では、かつては30〜40代の若年〜中年層が主力でしたが、近年は以下のような変化が顕著です。
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若年層(20代〜30代前半)は、非正規雇用や給与水準の低迷により、ローン取得への心理的・実務的ハードルが高くなっています。
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40代〜50代では、子育てや将来の教育費負担を考慮して、低金利を活かした取得を積極的に選択する層が多く、地域によって差が出ています。
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一方、60代以降では、すでにローンを完済しているか、賃貸や持家の住み替えを選択する傾向が見られます。
今後の見通しとリスク
住宅ローン支払い世帯の今後の動向は、以下の複合的な要因に左右されます。
(1)金利の上昇リスク
日銀の政策変更や米国金利の影響により、今後の固定金利型ローンの上昇が予想され、借入を控える世帯が増える可能性があります。
(2)地価と建築費の継続的上昇
地方でも建材費や人件費の上昇が影響し、住宅取得自体を断念する層の増加も懸念されます。
(3)人口減少・空き家問題との関連
住宅ローンの返済対象となる新築住宅需要は縮小する可能性が高く、今後は中古・空き家を再活用するローン商品の多様化が進むと見られます。
(4)都市間格差の定着
新潟市などの「高水準都市」と、那覇市や神戸市のような「低水準都市」の格差は今後も広がる傾向があり、それぞれの自治体が打ち出す住宅取得支援策や雇用政策が重要となります。
まとめ
住宅ローンを支払う世帯の比率は、都市間・世代間で大きな差があり、その背景には地価・収入・家族構成・政策など多くの要素が絡んでいます。今後は、金融政策や住宅市場環境の変化に柔軟に対応しつつ、地域ごとの実情に合った住宅政策の立案と支援制度の整備が求められるでしょう。特に地方中核都市における前向きな住宅取得行動を支援しつつ、首都圏や都市部でのローン取得支援をどう実現するかが、大きな課題となっていきます。
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