移転支出の都市間格差とその背景—贈与・仕送りの動向と今後の予測

収入・支出



総務省「家計調査」によると、二人以上世帯の移転支出(贈与金・仕送り金)の全国平均は1.619万円であり、都市によって大きな差が見られる。名古屋市や高松市、京都市では高額な支出が顕著であり、特定地域での急増も確認されている。一方で仙台市や高知市などでは大幅減少。本稿では、こうした動向の背景にある社会的・経済的要因、世代間の特徴、今後の予測について章立てで解説する。

移転支出(贈与金+仕送り金)の家計調査結果

移転支出(贈与金+仕送り金)の多い都市

2025年3月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名称 全国 名古屋市 高松市 京都市 盛岡市 松山市 福井市 鹿児島市 前橋市 千葉市 富山市
最新値[万円] 1.619 5.317 3.597 2.948 2.859 2.711 2.668 2.526 2.462 2.338 2.241
前年月同比[%] +12.41 +690.9 +99.27 +648.3 +16.38 +140.2 -26.99 +228.9 +46.76 +108.5 +65.85

移転支出(贈与金+仕送り金)の少ない都市

2025年3月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名称 全国 仙台市 高知市 佐賀市 那覇市 和歌山市 神戸市 川崎市 岡山市 熊本市 秋田市
最新値[万円] 1.619 0.341 0.376 0.608 0.612 0.755 0.757 0.768 0.779 0.779 0.784
前年月同比[%] +12.41 -87.65 -84.93 -44.43 -53.94 -60.18 +58.69 -42.04 -88.44 -45.11 -41.38

 

これまでの移転支出(贈与金+仕送り金)の推移

移転支出(贈与金+仕送り金)の推移
最新のデータ

 

詳細なデータとグラフ

 

移転支出(贈与金+仕送り金)の現状と今後

「移転支出」とは、贈与金や仕送り金のように、対価を伴わない支出を指す。家計調査においては、親から子への仕送り、あるいは逆に子から親への金銭的援助、結婚や出産時の贈与金、進学費用の支援などが含まれる。これは単なる個人間の金銭移動ではなく、家族関係のあり方や地域文化、生活コスト、経済状況の影響を受ける複雑な指標である。


移転支出の全体的傾向(2008年~2025年)

移転支出はリーマンショック(2008年)後の経済停滞期に減少傾向を見せたが、その後の景気回復や高齢化進展により、再び増加に転じた。とくに近年では、物価高騰や教育費・住宅取得費の上昇などを背景に、若年層への支援が増えたと推測される。コロナ禍においては一時的に減少したが、2023年以降は回復基調にある。


都市間格差の実態と背景

上位都市の特徴

  • 名古屋市(5.317万円):突出した増加率(+690.9%)は、相続や資産移転の一時的増加が推測される。中部圏の資産家層の動きが影響している可能性。

  • 高松市・松山市・京都市:中小都市だが文化的に「子や孫に支援する」傾向が強く、地元進学・就職との関係性が深い。

  • 前橋市や富山市:親世代と子世代の同居率が低めなため、遠隔での仕送りが発生しやすい。

下位都市の特徴

  • 仙台市・高知市・佐賀市:仕送りが少ない、または支援余力が少ないと見られる。高知や佐賀は世帯所得の低さ、仙台は学生数の減少も影響している可能性。

  • 川崎市・神戸市:都市規模のわりに移転支出が少なく、親子の経済的自立性が高いことや、世帯分離率の高さが背景と考えられる。


世代間の関係性と移転支出の動き

近年の少子高齢化や「孫支援ブーム」などにより、高齢者から若年世代への贈与が増加している。特に住宅取得資金や教育資金としての一括贈与非課税制度の活用が目立つ。一方で、若年層から親世代への仕送りは減少傾向で、親の年金収入や公的支援への依存が背景にある。


税制・制度的影響と政策動向

贈与税の緩和、教育資金贈与の非課税制度、住宅取得資金の特例などが移転支出の増減に直接的影響を与える。2024年以降、相続と贈与の一体課税を見据えた動きが加速しており、一時的な贈与の増加を誘発している地域もあると考えられる。


今後の予測と課題

今後の移転支出の動向は以下の要因に左右される:

  1. 高齢者の資産動向:70歳以上が保有する金融資産の行方は移転支出のカギ。

  2. 若年層の経済的困窮:仕送りや援助への依存が続けば、支出は横ばいか増加。

  3. 税制の動き:贈与税・相続税の制度次第で動きは大きく変わる。

  4. 世帯構造の変化:核家族化の進展は仕送り支出の要因となりやすい。

ただし、地方都市では経済的な余裕の低下や単身高齢者の増加により、贈与が困難になるケースも増えると見られる。


地域経済への影響と社会的含意

移転支出は地域経済に波及効果を持つ。子世代の生活を支える仕送りがあることで、消費行動や教育・就労選択が変わる。一方で、支援側の高齢者世代の生活資金が乏しくなるリスクもある。持続可能な形での移転支出を促すためには、政策による中間支援が今後必要となる。


まとめ

移転支出は単なる家族間の金銭移動ではなく、日本の人口動態、世代間の資産移転、都市間の経済格差、税制の影響などを色濃く反映する重要な指標である。今後の高齢化社会において、この指標はますます注目を集めることになるだろう。家計調査の定点観測をもとに、制度設計や地域政策への活用が求められる。

 

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