和服支出の役職別動向：自営業と雇用層で明暗分かれる背景とは

2025年3月時点での和服の役職別支出平均は218.5円。最も高いのは自営業主・その他（378円）で、次いで雇用者（286円）、無職（14円）と続く。しかし、いずれの層でも前年から支出は減少傾向にある。和服は職業属性によって用途と消費意識が大きく異なり、自営業層では仕事上の演出や文化活動の一環として使われる場面が多い。一方、無職層では実用性やコスト面から遠ざかる傾向が見られる。今後は和装の簡便化やレンタル市場の発展が各層に与える影響が鍵となる。

2025年3月時点での和服の役職別月間支出は以下のような構成になっている。

最大支出は自営業主、最小は無職層であり、いずれも前年より支出が減少しているのが特徴である。

役職別支出の文化的背景と使用目的の違い

自営業主・その他（378円）

特徴：

• 和服を職業的な演出やアイデンティティの一部として活用する層。

• 例：料理人、呉服店主、伝統工芸職人、文化講師、芸能関係者など。

使用実態：

• 日常の仕事着またはイベント時の正装として頻繁に使用される。

• 特に観光地や和文化体験施設など、和装を通じて「ブランドイメージ」を高める必要がある職業にとっては実用品。

課題：

• 和服の購入や維持にかかるコストが高いため、経済環境の変化に影響されやすい。

• 実際、前年比で24.85%の減少は、物価高騰や消費抑制の影響を示している。

雇用されている人（286円）

特徴：

• 一般企業勤務者、公務員、パート・アルバイトなどを含む幅広い層。

• 和服は基本的に行事用・趣味用・余暇用途での着用が主。

使用実態：

• 成人式・結婚式・入学式などのフォーマルな場面で一時的に着用。

• 一部の女性層では茶道・華道などの文化的趣味の一環としても着られる。

課題：

• 日常着としての定着には至っておらず、高価格や扱いの難しさが障壁となっている。

• 前年比8.333%の減少は、コロナ以後の行事縮小や物価上昇による支出抑制の影響が読み取れる。

無職（14円）

特徴：

• 定年退職者、専業主婦、求職者などが含まれる。

• 家計の支出が限定的であり、実用品としての和服の優先度が低い。

使用実態：

• 特別な文化行事や宗教的な儀式に限られ、ほぼ「非日常」の衣類。

• 若年の無職層にとっては興味対象外、高齢層にとっては着付けや保管の負担がネック。

課題：

• 市場としては非常に小さく、支出金額はほぼゼロに近い。

• 和服文化の継承対象から外れつつある層ともいえる。

役職別和服支出の減少要因

物価上昇による可処分所得の減少

• 和服は一着数万円〜十数万円に及ぶケースが多く、インフレ局面で最初に削減されやすい支出項目。

ライフスタイルの洋装化と合理化志向

• ビジネス・冠婚葬祭を問わず、洋装が標準となった現代社会では、和装の手間・コスト・利便性の低さがマイナスに働く。

着用機会の減少

• 働き方改革やテレワーク普及により、社交イベントや出張が減少。

• 特に雇用者層において、「見せる服」としての和装の機能が縮小している。

役職別に見る今後の推移予測と可能性

自営業主層の再活性化とレンタル需要の拡大

• 観光業・地域創生文脈での「おもてなし和装」のニーズは依然根強い。

• レンタル和服・シェア和服の普及によって、コスト負担の軽減と支出額の再上昇が見込まれる。

雇用者層向け：機能性・ファッション性重視の市場拡張

• カジュアル和装や「仕事帰りに着物教室」のようなスタイルの提案が鍵。

• 通勤着や在宅時間でも楽しめるイージーケア和服の需要拡大が期待される。

無職層向け：シニア向けの回想・文化体験型提案

• 高齢者施設でのイベントや、終活・写真館利用などの限定的な和服体験機会の創出が求められる。

• 和文化体験の補助事業として地方自治体との連携も選択肢。

政策的・産業的視点からの今後の戦略

和装文化の生活化と日常化

• 各層に「和服＝非日常」から「和服＝身近なおしゃれ」へと認識を変えるアプローチが必要。

労働属性に応じた商品・価格帯の最適化

• 雇用層向け：5,000〜10,000円台の普段着用簡易和服

• 自営業層向け：職業別パッケージ販売（例：飲食業向け作務衣＋法被）

和服産業と教育・観光の連携

• 文化的な職業訓練（着付け師、和裁士）育成と並行し、体験・講座型マーケティングで消費者層の拡大を目指す。

まとめ

和服支出は職業属性によって大きく二極化しており、自営業主は文化的・職能的動機で支出が多く、無職層ではほぼゼロに近い現状がある。しかし共通しているのは、物価上昇によりすべての層で支出が縮小傾向にあることだ。これからの和服市場には、「着る負担を減らし、体験の価値を高める」商品・サービス設計と、役職ごとのライフスタイルに応じたアプローチが不可欠である。