2025年3月時点の家計調査によると、全国の1世帯(二人以上)当たりの65歳以上人口は平均0.85人。長崎市や長野市などでは1人を超え、高齢者と同居する傾向が強い。一方、松山市や高知市などでは0.5人台に留まる。高齢化が都市により異なる形で進行する中、地域性やライフスタイルの違い、若年層の転出入動向などが影響しており、将来的には「孤立化」「介護負担の偏在」が課題になると予測される。
65歳以上人員数の家計調査結果
65歳以上人員数の多い都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 全国 | 長崎市 | 長野市 | 奈良市 | 福井市 | 佐賀市 | 神戸市 | 宮崎市 | 岐阜市 | 津市 | 横浜市 |
最新値[人] | 0.85 | 1.15 | 1.09 | 1.06 | 1.05 | 1.05 | 1.01 | 1.01 | 0.99 | 0.97 | 0.97 |
前年月同比[%] | +45.57 | +25.29 | +6 | +12.9 | +36.36 | +2.02 | +4.124 | +26.92 | +16.87 | +14.12 |
65歳以上人員数の少ない都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 全国 | 高知市 | 松山市 | 川崎市 | さいたま市 | 広島市 | 前橋市 | 名古屋市 | 熊本市 | 金沢市 | 鹿児島市 |
最新値[人] | 0.85 | 0.54 | 0.55 | 0.65 | 0.66 | 0.69 | 0.7 | 0.72 | 0.72 | 0.72 | 0.72 |
前年月同比[%] | -12.9 | -28.57 | -4.412 | -1.493 | -28.13 | -27.84 | -12.2 | -2.703 | +10.77 | +5.882 |
これまでの65歳以上人員数の推移


詳細なデータとグラフ
65歳以上人員数の現状と今後
高齢化社会が深刻化する日本において、家計調査における「二人以上世帯内の65歳以上人員数」は、単なる人口構成以上に、家族の在り方、地域社会の支え合いの実態、そして福祉・医療需要の地域差を把握する上で重要な指標である。2025年3月の時点で全国平均は0.85人。つまり、多くの世帯で65歳以上の高齢者と同居している実態が明らかとなっている。
高齢者が多い都市の特徴と背景
上位都市の共通点
1世帯当たり65歳以上人員数が最も多いのは長崎市(1.15人)、次いで長野市(1.09人)、奈良市(1.06人)などとなっており、1人を超える地域も多い。これらの地域に共通するのは以下の点である:
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地形・住宅事情により「核家族化」が進みにくく、親世代との同居が継続されやすい。
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若年層の都市部への流出により、残された世帯構成が高齢者中心になりやすい。
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医療機関や地域包括ケアの整備が進み、「住み慣れた地域で最期まで」志向が高い。
増加率に見る変化
特に注目すべきは佐賀市(+36.36%)、岐阜市(+26.92%)、長野市(+25.29%)のような地方都市での急増である。これは地域での高齢化の進展と同居率の上昇が並行して進んでいることを示している。結果として、家庭内での介護負担が増すリスクも抱える。
高齢者が少ない都市の特徴と傾向
下位都市の特徴
一方で、松山市(0.55人)、高知市(0.54人)、川崎市(0.65人)などでは全国平均を大きく下回る。これらの都市は次のような特性を持つ:
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若年層の人口が比較的多く、1世帯あたりの平均年齢が若い。
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高齢者の単身化や施設居住が進み、二人以上世帯に含まれにくい。
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地価や住宅事情により、多世代同居が敬遠される傾向。
減少率の要因
特に松山市(-28.57%)や広島市(-28.13%)などでの大幅な減少は、世帯構成の変化、施設介護への移行、あるいは高齢者の死亡や転出による構造変化が想定される。
世代間・地域間の文化と価値観の違い
都市ごとの違いは、文化的背景や家族観の差にも起因する。たとえば長野や奈良といった地域では「親との同居=自然」という価値観が残っており、世帯内に高齢者が含まれる率が高い。一方で大都市圏に近い川崎やさいたまでは、核家族が標準的であり、経済的にも自立した単身高齢者が多く、同居率は低い。
今後の予測と課題
孤立高齢者の増加
都市部では高齢者が世帯外に分離される傾向が続くと予想され、「孤立死」や「見守り支援」の課題が深刻化する可能性がある。
地方の介護負担の集中
地方では高齢者と同居する中高年世代への介護負担が集中するため、自治体支援の限界が早期に露呈するリスクがある。
若年人口の流出と高齢者率の固定化
若年世代の都市部流出は止まらず、結果として地方における「高齢化の固定化」「縮小社会の加速化」が避けられない。
政策的示唆と今後の対応
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地域包括ケアの強化高齢者がどの都市にいても自立できる生活基盤を整える必要がある。都市別の同居傾向を踏まえ、地域特性に応じたモデル整備が求められる。
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住環境整備と多世代住宅の促進若年層と高齢者が共に暮らせる住宅政策や補助金制度の拡充が鍵となる。
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世帯構成の変化を見据えた統計整備今後さらに単身世帯や少人数世帯が増える中、家計調査などの統計の取り方や分析の軸も柔軟に対応していく必要がある。
おわりに
家計調査が明らかにした65歳以上人員数の地域差は、単なる統計的数値にとどまらず、日本の「老い」と「暮らし方」の実像を浮かび上がらせる鏡でもある。今後の人口動態と社会構造を読み解く上で、都市間の差異を意識した柔軟な政策展開が重要である。
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