2025年3月時点で全国平均24.8畳となった賃貸住宅の平均畳数は、都市ごとに大きな差が見られる。津市や横浜市で大幅な増加が見られる一方、相模原市や福井市では減少傾向が続く。若年層の単身・核家族化、都市部の地価高騰、住宅供給のトレンドなどが要因であり、今後も地域格差や高齢化、空き家の活用が鍵となる。賃貸住宅における「広さ」の概念は、今後も多様化する暮らし方と共に変容するだろう。
平均畳数(賃貸・借家)の家計調査結果
平均畳数(賃貸・借家)の多い都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 全国 | 津市 | 横浜市 | 佐賀市 | 富山市 | 堺市 | 名古屋市 | 松山市 | 奈良市 | 山口市 | 秋田市 |
最新値[畳] | 24.8 | 40.3 | 37.5 | 35.6 | 31.5 | 31.2 | 29.4 | 29.3 | 29.3 | 28.5 | 28.2 |
前年月同比[%] | -2.745 | +49.26 | +48.22 | +31.85 | +8.247 | +28.4 | -18.56 | +29.07 | +6.159 | +25 | -1.053 |
平均畳数(賃貸・借家)の少ない都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 全国 | 相模原市 | 那覇市 | 岡山市 | 浜松市 | 宇都宮市 | 高松市 | 岐阜市 | 宮崎市 | 北九州市 | 福井市 |
最新値[畳] | 24.8 | 20.4 | 21 | 21.3 | 21.3 | 21.4 | 21.4 | 22.1 | 22.6 | 22.8 | 22.9 |
前年月同比[%] | -2.745 | -19.69 | -6.25 | -13.77 | -1.382 | -19.55 | -0.45 | +25.56 | +18.75 | -24.42 |
これまでの平均畳数(賃貸・借家)の推移


詳細なデータとグラフ
平均畳数(賃貸・借家)の現状と今後
「畳数」は住宅の広さを示す日本独特の単位であり、1畳はおおよそ1.62㎡。家計調査において「賃貸・借家」の平均畳数は、都市部を中心とした生活空間の変化を捉える重要な指標だ。全国平均24.8畳という数値は、あくまで「二人以上世帯」でのものであり、単身世帯を除いた、比較的広さを求める層の実態を映している。
最新データに見る都市間格差の顕在化
最新データで最も広い津市(40.3畳)と最も狭い相模原市(20.4畳)では、実に約2倍の開きがある。この格差は単に地価や家賃相場だけでなく、都市の構造的性格、住宅政策の違い、築年数や新築率の違いが反映されている。
特に津市や横浜市、佐賀市のように大幅な畳数増加(+30%以上)を示す都市では、新築またはリノベーション物件の供給が進み、広さを売りにした物件が増加していると考えられる。
一方で、相模原市や福井市のように大幅減(-20%前後)を記録した地域では、空き家や古い狭小賃貸が多く、住宅市場の更新が滞っている可能性が高い。
世代間による空間の選好の違い
若年層は「立地重視」「コンパクト」「低家賃志向」であり、特に20〜30代では20畳前後の物件でも満足度が高い傾向がある。一方で、子育て世帯や高齢夫婦世帯では、30畳以上の広さを求める傾向が顕著。
津市や佐賀市など、比較的地方の中核都市で広い賃貸物件が目立つのは、ファミリー世帯の移住・回帰や在宅勤務の定着による“郊外回帰”が影響している可能性がある。
賃貸市場が抱える構造的な問題
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都市部の高騰する地価 都市部では地価・賃料が高止まりし、建物の「高さ」や「コンパクト性」によって収益性を確保する流れが強く、狭小賃貸の供給が多い。
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空き家・老朽賃貸の増加 地方では広さはあるものの築年数が古く、若年層には敬遠されやすい「使いにくい広さ」が増えている。
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更新・建て替えの遅れ 中小不動産業者では大規模修繕や更新が難しく、結果として広いが魅力に欠ける賃貸が埋まらず、地域平均を引き下げる要因となっている。
今後の予測と広さの価値観の変容
広さの評価軸の変化
「広いから良い」という単純な価値観は崩れつつある。例えば、収納力・家事動線・在宅ワークのための「使える空間」が重視されるようになってきた。畳数より「間取りの質」や「共用部の利便性」が評価される場面も増えている。
中核都市の台頭と広さ志向の復活
横浜市や奈良市など、交通利便性がありながら賃料の割安感もある都市では、広さの価値が見直されつつある。在宅勤務の普及によって、広めの物件を希望する中高年層の需要が継続的に伸びると見られる。
空き家活用によるリノベ賃貸の増加
地方では空き家問題を背景に、戸建賃貸や広めの元分譲マンションを活用したリノベーション物件の供給が進む可能性がある。これにより、畳数の底上げが進む地域も出てくるだろう。
賃貸住宅の「広さ」はこれからどう変わるか
平均畳数という指標は、単なる物理的広さだけでなく、その地域の住宅政策、住民の年齢構成、働き方のトレンドまでも内包している。都市によっては急増、他方では縮小や停滞が見られる現在、広さ=豊かさという単純な時代は終わった。
これからの賃貸住宅では、「ちょうどよい広さ」や「多機能な狭さ」といった柔軟な発想が求められる。平均畳数の動向は、生活者の価値観の移り変わりを映し出す鏡として、今後も注目されるべき指標である。
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