2008年から2025年3月までの家計調査によると、二人以上世帯の被服関連サービス支出は平均698.6円と低水準にとどまるが、都市別には奈良市や宮崎市などで急増。一方、津市や北九州市などでは支出が極端に少なく、減少傾向も見られる。世代交代や生活様式の変化により、サービス利用の格差が拡大している。今後は高齢化とデジタル化に伴う構造変化が予想される。
被服関連サービスの家計調査結果
被服関連サービスの多い都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
名称 | 平均 | 奈良市 | 宮崎市 | 名古屋市 | 山形市 | 富山市 | 福井市 | 岡山市 | 広島市 | 札幌市 | 東京都区部 |
最新値[円] | 698.6 | 3954 | 3139 | 2542 | 1623 | 1230 | 1191 | 1144 | 1112 | 1029 | 970 |
前年月同比[%] | +8.45 | +802.7 | +1156 | +455 | +31.31 | +87.79 | +162.3 | +106.9 | +120.6 | +200 | -56.83 |
被服関連サービスの少ない都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
名称 | 平均 | 津市 | 相模原市 | 北九州市 | 松江市 | 盛岡市 | 堺市 | 那覇市 | 秋田市 | 水戸市 | 川崎市 |
最新値[円] | 698.6 | 5 | 66 | 106 | 181 | 182 | 201 | 234 | 238 | 246 | 272 |
前年月同比[%] | +8.45 | -96.75 | +11.86 | -83.49 | -94.95 | -78.81 | -57.14 | -13.33 | -61.55 | -58.16 | -76.43 |
これまでの被服関連サービスの推移


詳細なデータとグラフ
被服関連サービスの被服費現状と今後
被服関連サービスとは、洋服の修繕、クリーニング、仕立て直し、レンタルなどを含む支出項目である。家計調査における最新データ(2025年3月)によれば、全国平均はわずか698.6円と、被服費の中でも特に小さい部類に入る。しかし、この数値の背後には、都市別の大きな差異と、社会の変化が色濃く反映されている。
被服関連サービス支出の歴史的変遷
かつて、被服関連サービスは生活に密着していた。特に1960〜80年代の日本では、洋服の修繕やクリーニングは「当たり前の家事」として、頻繁に利用されていた。しかし、90年代以降のファストファッション台頭と低価格衣料の普及によって、衣類を「直すより買い替える」文化が浸透。結果として、サービス需要は縮小し、支出も減少傾向に転じた。
2008年以降もこの傾向は続き、パンデミック期(2020〜2022年)には外出自粛によりクリーニング需要が1段と落ち込んだ。2025年時点でも、平均支出額は700円を切るなど、かつての日常的な利用からは遠ざかっている。
都市別支出の極端な差とその背景
今回のデータで注目すべきは、都市間で見られる支出額の極端な差である。奈良市(3954円)、宮崎市(3139円)、名古屋市(2542円)といった地域では突出した数値を記録している1方で、津市(5円)、相模原市(66円)、北9州市(106円)などでは、ほぼゼロに近い水準である。
この差の背景には以下のような要因があると考えられる:
-
1時的な要因:奈良市や宮崎市の急増は、特定の月に1部世帯が冠婚葬祭用レンタルや大量クリーニングを利用した可能性。
-
世帯構成の違い:高齢世帯の比率が高い都市では、自宅で洗濯せずクリーニングに頼る傾向があり得る。
-
都市構造の影響:地方都市では、サービス業の利用機会が限られている1方、1部地域では集中して利用される傾向もある。
-
価格・物価の影響:クリーニングなどの価格設定は都市ごとに異なり、それが支出額に直結する。
世代別の利用傾向と意識差
若年層はファッションに対する関心は高くても、被服サービスの利用は極めて低い。これは、
-
衣類を安価で頻繁に買い替える習慣
-
自宅洗濯機や乾燥機の普及
-
サブスク型衣類サービスの登場
などにより、従来型のクリーニング・仕立て直しを必要としない生活スタイルが主流となっているためである。1方、50代以降の世代では、クリーニングや礼服レンタルなどの需要が依然として存在する。
コロナ禍の影響と回復への道筋
2020〜2022年のコロナ禍では、外出機会の減少と在宅勤務の拡大により、スーツや制服の着用が激減。これにより被服関連サービスの利用頻度も大幅に落ち込んだ。2023年以降は緩やかな回復が見られるものの、元の水準には遠く及ばない。
特に、東京など都市圏では「在宅勤務常態化」の影響で、継続的に支出が抑制されている1方、地方都市では冠婚葬祭などのイベント再開に伴う1時的な増加が起きているようだ。
今後の推移予測と政策的な示唆
今後、被服関連サービス費は以下のような形で推移する可能性がある:
-
高齢化の進展:高齢者世帯では自宅での洗濯が困難となり、外部サービス依存が進む可能性が高い。
-
都市と地方の2極化:都市部では「手間のかかるサービスは避ける」傾向が強まり、地方ではイベントや地域文化に紐づいた支出が残る。
-
DX(デジタルトランスフォーメーション)による再定義:スマホで注文できる宅配クリーニングやオンライン衣装レンタルが普及すれば、新しい形での利用が広がる可能性もある。
-
価格高騰とサービス離れ:人件費高騰が続けば、今後ますます支出が抑えられる傾向に拍車がかかるだろう。
おわりに:サービスの意味が問われる時代へ
被服関連サービスの支出データは、単なる金額の増減ではなく、「暮らしの変化」そのものを映し出す鏡である。支出の落ち込みは、サービスの衰退だけでなく、日常生活における価値観や優先順位の変化を如実に物語っている。今後、サービス業は価格競争ではなく、「意味や価値」を再定義することが求められるだろう。
コメント