2025年時点での自動車保険(自賠責)料の年収別月間支出を見ると、1500~2000万円世帯の支出が突出して高く、前年から約82%も急増しています。中間層でも支出増が目立ち、特に600~700万円層では+55.6%の増加となっています。背景には、保有車両の増加や保険プランの拡充、都市部移動需要の変化などがあり、今後も格差的な負担拡大が懸念されます。本稿ではその要因と展望を多角的に解説します。
年収別の自動車保険料(自賠責)
1世帯当りの月間支出
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 平均 | 1500~2000万 | 600~700万 | 800~900万 | 1000~1250万 | 400~500万 | 1250~1500万 | 300~400万 | 900~1000万 | 500~600万 | 700~800万 |
最新値[円] | 739.9 | 1146 | 878 | 861 | 834 | 802 | 796 | 785 | 709 | 701 | 585 |
前年月同比[%] | +8.223 | +81.62 | +55.67 | -8.111 | +13.16 | -12.73 | +7.713 | +20.77 | +23.52 | +9.02 | -24.9 |
これまでの年収別の推移


詳細なデータとグラフ
年収別の現状と今後
自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は法律で加入が義務付けられている保険であり、任意保険とは異なり最低限の補償をカバーします。物価高騰やガソリン代の上昇といった生活コストの中、自賠責は「削れない固定支出」のひとつとして多くの家庭に影響を与えています。近年では、世帯年収によってその負担感や行動変容に明確な違いが出始めています。
年収別支出の特徴 ― 高年収層での顕著な増加
2025年3月時点のデータでは、月間の自賠責保険料支出は1500~2000万円の高年収層で1146円と突出しており、前年から+81.62%の増加を記録しました。これは平均(739.9円)を大きく上回る数値です。
他にも、600~700万円(+55.67%)、900~1000万円(+23.52%)、300~400万円(+20.77%)の層で増加傾向が見られ、特に中間層の一部でも急激な上昇が起きています。一方、800~900万円や400~500万円、700~800万円層では支出が減少しており、すべての層で同じ傾向が見られるわけではありません。
増加要因の分析 ― 保有台数とライフスタイルの変化
年収が高い層ほど保有する車の台数が多く、セカンドカー・サードカーを所有する傾向が強いため、自賠責保険料の支出総額も増加しやすくなります。また、富裕層は高級車や大型車を好む傾向があり、これらは登録時に保険料が高くなるケースもあります。
さらに、都心在住の富裕層がコロナ後に地方移住やセカンドハウスを購入し、自家用車の必要性が高まったことで、自賠責への支出が増加した可能性もあります。
中間層においても、自家用車に加え、軽商用車や送迎用車両などを持つ家庭が増え、支出が底上げされています。
減少傾向の層に見られる特徴 ― 生活防衛と車離れ
逆に800~900万円層や700~800万円層などでは、前年よりも自賠責支出が減少しています。これらの層では、車の保有台数や車種の見直しを行い「生活防衛」に動いた世帯が多いと考えられます。特に700~800万円層では-24.9%という大幅な減少が確認されており、カーシェアリングの利用拡大や地方から都市部への転居による車手放しが影響している可能性があります。
中間層の挟み撃ち ― 支出増に見合わない便益
600~700万円層は+55.6%という異常な増加を見せていますが、この層は子育てや住宅ローン、教育費などの出費も重なるため、非常に苦しい立場です。高所得者に比べ保険料の値上げを家計に吸収しきれず、他の支出にしわ寄せが行く傾向があります。
このような「中の上」層は、経済的余裕があるように見えても、実際には支出増加に対して最も防衛策を講じにくい階層といえます。
今後の展望 ― 自賠責料の地域格差との絡みと政策的課題
今後、世帯年収別の支出傾向はさらに二極化していく可能性があります。地方では生活に車が不可欠な一方、都市部では「車を持たない自由」も広まりつつあります。こうした構造的変化は年収別だけでなく地域別の支出傾向とも複雑に絡み合い、政策上の対応を求める課題となっていきます。
自賠責保険料そのものの制度見直しや、多車割引、環境車向けの優遇制度、低所得世帯向けの助成などが、将来的な制度改正として検討されるべきでしょう。
まとめ ― 家計構造の変化と自賠責支出の再定義
年収が高い世帯においても、支出増加は顕著であり、保険料の負担はもはやすべての層で無視できない問題となっています。特に中間層に対する政策的な支援や、保険設計の柔軟性を求める声が強まっていくことが予想されます。
「自賠責保険=固定負担」という認識を超え、家計の中でいかに効率的に位置付けていくかが、今後の社会的課題の一つとなるでしょう。
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