生地・糸類支出の地域差と将来展望|家計調査で見る手芸文化の衰退

その他被服



家計調査によると、二人以上世帯での生地・糸類への支出は全国平均68.21円と低水準ながら、手芸や裁縫の趣味が根付く地域で顕著に支出されています。堺市や山形市、札幌市などでは一定の需要があり、逆に松山市や青森市では支出がほぼ消失。世代間では高齢者の手作り文化が支出を支えていますが、若年層では既製品志向が強く、今後は高齢層の縮小と共に支出全体の減少が予測されます。

生地・糸類の家計調査結果

生地・糸類の多い都市

2025年3月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名称 平均 堺市 山形市 札幌市 岐阜市 水戸市 岡山市 京都市 福島市 前橋市 相模原市
最新値[円] 68.21 261 210 209 200 129 121 116 113 113 108
前年月同比[%] -44.84 +22.54 +204.3 -8.734 +194.1 -6.522 -21.94 +329.6 -15.04 +29.89 -26.03

生地・糸類の少ない都市

2025年3月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名称 平均 松山市 青森市 鳥取市 仙台市 千葉市 浜松市 奈良市 広島市 富山市 神戸市
最新値[円] 68.21 3 4 7 8 12 14 15 15 16 21
前年月同比[%] -44.84 -86.96 -97.6 -97.71 -95.7 -85.54 -89.39 -92.68 -90.63 -86.09 -92.45

 

これまでの生地・糸類の推移

生地・糸類の推移
最新のデータ

 

詳細なデータとグラフ

 

生地・糸類のその他被服現状と今後

家計調査の「その他被服」には、完成品以外の素材購入も含まれており、その代表が「生地・糸類」です。これには、裁縫・編み物用の布、毛糸、刺繍糸、裁縫用布地などが該当します。つまりこの支出は、単に衣料を買うのではなく、「自分で作る・補修する」という手仕事文化の痕跡を反映しています。

しかし、2008年以降の長期的な傾向として、既製品やファストファッションの普及により、「家庭内で衣類を作る・直す」という文化は急速に衰退しています。


地域差の実態 — 支出の多い都市とその背景

2025年3月のデータを見ると、堺市(261円)山形市(210円)札幌市(209円)、岐阜市(200円)などで比較的高い支出が見られます。これらの地域には以下のような特徴があります:

  • 歴史的・文化的に手仕事が根付いている 堺市は刃物の町として知られ、伝統工芸や手仕事文化が今なお生きている土地柄です。山形や岐阜、京都もまた染織や和裁文化が色濃く残る地域であり、家庭内でも「布地を使った物作り」への親和性が高いと考えられます。

  • 高齢化率の高さ 高齢層は、若年層に比べて裁縫や編み物を日常的に行う傾向があり、それが地域ごとの支出差に反映されていると見られます。

  • 趣味市場の活発さ 札幌市や前橋市のような都市では、冬季の屋内活動としての手芸趣味が需要を支えている可能性もあります。


支出が極端に少ない地域の背景

1方、松山市(3円)青森市(4円)鳥取市(7円)、仙台市(8円)などは支出がほぼゼロに近くなっています。これらの都市に共通する背景は以下の通りです:

  • 趣味の多様化とデジタル化 手芸や裁縫に代わり、スマートフォンやゲーム、動画視聴といった「非物理的な趣味」が主流化しています。

  • 手芸小売店の減少 小規模都市ほど手芸用品を扱う店が減少しており、結果として材料を買う場所自体が限られています。生地・糸を買うこと自体が困難という環境要因も影響しています。

  • 若年層の手作り離れ 「作るより買う」ことが当たり前の若年層が中心の都市では、家庭内での裁縫文化がほぼ消滅していると見られます。


世代間の違い — 手作り文化の終焉?

生地・糸類の購入には明確な世代差があります。

  • 60代以上の高齢層:戦後の物不足を経験し、布を無駄にしない・手直しするという価値観が強く、今も趣味として裁縫や編み物を行う人が多いです。町内会や公民館などでの講座も1定の需要があります。

  • 中年層(40〜60代):1部は子どもの入園グッズ作成などで布地を購入することがありますが、それもミシンを持つ家庭が減ってきており、限定的です。

  • 若年層(20〜30代):SNSやファストファッション、100円ショップなどの影響で、必要な物はすぐに「買う」のが基本。手芸は1部の趣味層に限られ、材料購入にまで至る例はまれです。


今後の見通しと残る可能性

全国平均の支出68.21円は微増・微減を繰り返しつつ、実質的には漸減傾向にあります。将来的には以下のような動向が想定されます。

  • 趣味人口の高齢化と消滅:手芸や裁縫を支えてきた世代が減るにつれ、生地・糸類の支出はさらに減少する可能性が高いです。

  • 1部市場の細分化・高価格化:少数精鋭の手芸愛好家やプロの作家向けに、より高品質で高価格な布・糸市場が維持されるかもしれません。

  • 教育との連携による回復の可能性:小学校家庭科での裁縫教育を重視し、子どもと保護者が1緒に作る体験が提供されれば、1時的に支出が回復する余地もあります。

  • メディア・SNSの影響:YouTubeやInstagramでの「ハンドメイド動画」「おうち時間の活用」などが1定の刺激となり、特定地域でブーム的支出が発生する可能性もあります。


まとめ:文化の名残か、再生の芽か

「生地・糸類」への支出は、日本における手作り文化・家庭内裁縫の“生き残り”の指標とも言えます。都市や世代によって明暗が分かれつつあり、今後は縮小が避けられないものの、教育・趣味・地域文化の支援により、細くとも息の長い文化として維持される可能性も残されています。家計調査はその終焉の兆しか、再生の萌芽か——注意深く読み解く価値があります。

 

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