無職世帯の賃貸住宅畳数の地域差と今後の課題:家計調査から読み解く

世帯・住宅



2020年11月から2025年3月までの家計調査に基づき、無職世帯が居住する賃貸・借家住宅の平均畳数について地域別に分析。横浜市や佐賀市での広さ拡大傾向に対し、浜松市や青森市などでは大幅な減少が見られる。背景には高齢者単身化や都市再開発、地域経済格差、空き家利用の差がある。今後はコンパクト志向と高齢化が進む一方で、自治体の住宅政策が平均畳数の推移に大きく影響すると予測される。

平均畳数(賃貸・借家)の家計調査結果

平均畳数(賃貸・借家)の多い都市

2025年3月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名称 全国 横浜市 佐賀市 堺市 富山市 北陸 松山市 山形市 大分市 秋田市 名古屋市
最新値[畳] 24 35 34.2 33.5 31.5 31 30.6 29.3 28.8 28.7 28.7
前年月同比[%] -5.138 +56.95 +27.14 +29.34 +8.247 +24.5 +41.01 +17.2 +4.727 +0.702 -22.22

平均畳数(賃貸・借家)の少ない都市

2025年3月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名称 全国 浜松市 さいたま市 津市 福井市 岡山市 那覇市 青森市 宇都宮市 沖縄 高松市
最新値[畳] 24 18.1 19.8 20.2 20.6 21.3 21.5 21.6 21.7 21.7 21.9
前年月同比[%] -5.138 -30.38 -24.71 -25.19 -32.01 -1.389 -4.018 -42.25 -5.24 -0.913 -18.89

 

これまでの平均畳数(賃貸・借家)の推移

平均畳数(賃貸・借家)の推移
最新のデータ

 

詳細なデータとグラフ

 

平均畳数(賃貸・借家)の現状と今後

少子高齢化と長寿化が進む日本において、無職世帯――特に年金生活者を中心とする高齢者層――の住環境は、生活の質を左右する大きな要素です。その中でも、持ち家ではなく「賃貸・借家」に居住する世帯の住宅事情は、経済的に脆弱な世帯層の現実を如実に反映しています。本稿では2020年11月から2025年3月の家計調査を基に、畳数(居住空間の広さ)に焦点を当て、都市間格差や時系列の変化、背景要因、今後の見通しについて多角的に考察します。


全国平均と目立つ都市 ― 増減傾向の二極化

最新の全国平均畳数は24畳とされていますが、その平均値の背後には大きな地域差が存在します。

広さが拡大する都市

  • 横浜市(35畳・+56.95%)

  • 佐賀市(34.2畳・+27.14%)

  • 堺市(33.5畳・+29.34%)

これらの都市では大幅な畳数の増加が見られます。特に横浜市の+56.95%という伸びは注目に値し、単身高齢者が地方にある広い空き家物件へ転居したり、新築のUR・民間賃貸住宅への入居が進んだ可能性が示唆されます。

狭小化する都市

  • 浜松市(18.1畳・-30.38%)

  • 青森市(21.6畳・-42.25%)

  • 津市(20.2畳・-25.19%)

これらの地域では逆に急激な縮小傾向があり、旧来の家屋が減少し、単身世帯用のワンルームやコンパクトマンションの供給が進んでいる可能性が高いです。


地域差を生む主な要因

高齢者単身化とライフスタイルの変化

年齢を重ねるごとに「広さ」よりも「利便性」や「管理のしやすさ」が重視されるようになり、都市部ではあえて小規模な住居を選ぶ傾向が強まっています。

地域経済と賃貸市場の差

地方都市では地価や家賃が安価であるため、広い物件にも手が届きやすい。一方、都市再開発によって旧来の広い賃貸が取り壊され、狭小住宅が主流になる都市も存在します。

空き家の利活用政策

富山市・北陸地方・松山市などでは、空き家を高齢者向けに改装・提供する取り組みが活発で、これが居住面積の拡大につながっている可能性があります。


世代間の居住スタイルと住宅観の違い

現在の無職世帯の多くは昭和〜平成初期に成人した世代です。この世代は「庭付き一戸建て」や「6畳間のある家」が当たり前という価値観で育っており、引退後もある程度の広さを求める傾向があります。一方、今後の無職世帯予備軍である団塊ジュニア以降の世代では、ミニマリズムやコンパクトな都市生活を好む傾向が強く、将来的に平均畳数は減少に向かう可能性が高いです。


今後の展望 ― コンパクト化と多様化の併存

平均畳数の今後の推移予測

  • 短期的には地域差が拡大:都市ごとの政策差が平均畳数に大きく影響する。

  • 中長期的には平均の縮小傾向:高齢単身世帯の増加と住み替え促進政策により、狭小住宅が主流に。

政策的な課題

  • 高齢者に適したバリアフリーかつコンパクトな賃貸物件の供給促進

  • 地域ごとの空き家利活用の強化

  • 高齢者の孤独化を防ぐためのコミュニティ型住宅の開発


おわりに ― 「広さ」だけでは測れない住まいの価値

畳数という物理的な指標は一つの目安にすぎず、無職世帯にとっての「良い住まい」とは、安心・安全・快適・経済的という多面的な条件がそろったものです。今後の住宅政策や社会インフラ整備においては、量的な指標以上に質的な住環境の整備が求められる時代に突入しています。

 

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