家計調査によれば、無職世帯の「繰越純増」は全国平均でマイナス2.397万円と、支出超過の傾向が続いています。都市別・世代別に見ると、年金依存度や物価差、地域社会の支援環境の違いが影響を与えています。特に都市部の単身高齢者は赤字傾向が顕著です。今後は社会保障制度や物価高の影響により、繰越赤字の世帯が増加する可能性があります。
繰越純増の家計調査結果
繰越純増の多い都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | |
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名称 | 全国 | 中都市 | 小都市A | 小都市B | 大都市 |
最新値[万円] | -2.397 | -1.844 | -2.137 | -2.777 | -3.041 |
前年月同比[%] | -9.623 | -37.11 | -7.686 | +18.9 | +8.59 |
繰越純増の少ない都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | |
---|---|---|---|---|---|
名称 | 全国 | 大都市 | 小都市B | 小都市A | 中都市 |
最新値[万円] | -2.397 | -3.041 | -2.777 | -2.137 | -1.844 |
前年月同比[%] | -9.623 | +8.59 | +18.9 | -7.686 | -37.11 |
これまでの繰越純増の推移


詳細なデータとグラフ
繰越純増の現状と今後
「繰越純増」とは、一定期間(通常は月単位)の収入から支出を引いた差額のうち、将来に持ち越される資産の増減を表します。家計調査では「無職世帯」を対象とした場合、これは主に年金などの定期収入に対して、日常生活費(食費・光熱費・医療費等)がどの程度を占めているかのバランスを示す指標になります。
この値がマイナスであることは、収入より支出が多い=貯蓄取り崩しの状態であることを意味し、家計の健全性にとって重要な警告サインとなります。
2018年〜2025年3月の繰越純増の動向
2018年から2025年3月にかけて、繰越純増は以下のような傾向を見せています。
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2018〜2019年:比較的安定しており、収支均衡に近い数値が多くみられた。
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2020年〜2021年:コロナ禍によって外出・消費が減ったため一時的に黒字化した世帯も。
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2022年以降:物価高、光熱費の上昇、介護費用増などで再び赤字傾向へ。
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2025年3月時点:全国平均で-2.397万円となり、再び明確な支出超過に。
とくに2022年以降のマイナス幅の拡大が特徴的で、これは電気・ガス代の高騰や食品価格の値上げが原因と考えられます。
都市間の違いと背景
都市別に見ると、繰越純増に大きな差が見られます。以下にその主な理由を示します。
上位都市(赤字幅が小さい、または黒字傾向)
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地方の住宅費が安価な都市(例:秋田、鳥取、鹿児島など)
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自家消費(家庭菜園など)が多く、食費の圧縮が可能
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地域コミュニティが強く、支援や物々交換が残る地域
下位都市(赤字幅が大きい)
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大都市圏(東京23区、大阪市、横浜市など)
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住宅費・医療費が高く、交通費や外食費も大きな負担
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単身高齢者の割合が高く、支出を削りづらい構造
特に都市部では医療・介護サービスへのアクセスは良いものの、それにかかる自己負担が地方より高くつきやすい傾向があります。
世代間の違い──年金受給者と前期高齢者の差
無職世帯の中でも、65〜74歳(前期高齢者)と75歳以上(後期高齢者)では状況が異なります。
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前期高齢者:まだ比較的健康で支出も抑えやすく、繰越がプラス傾向にある場合も。
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後期高齢者:医療費や介護費が増加し、支出過多に陥りやすい。
また、持ち家かどうか、ローン残債があるか、配偶者の有無といった家族構成要因も繰越純増の差に影響します。
現行制度と家計への圧力
繰越純増のマイナス傾向には、以下の制度的背景もあります。
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公的年金の実質目減り:物価上昇に対して年金支給額の伸びが追いついていない
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医療・介護保険の自己負担増:高齢者向け制度の財政的持続可能性のために見直しが進行中
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地方の交通インフラ縮小:車がなければ生活困難になり、外注サービスに頼る必要がある
こうした背景が、実質的な家計の圧迫につながっており、「赤字を前提とした生活」になっている世帯が増加中です。
今後の予測と政策的課題
今後も繰越純増は全国的にマイナス傾向を続けると予測されます。理由は以下の通りです。
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人口高齢化の進行:年金だけでは暮らせない高齢者の割合がさらに増加
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物価上昇の継続:特に生活必需品の価格は高止まりする見通し
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資産格差の拡大:退職金や貯蓄のない層が、赤字生活に陥りやすい
これに対して、以下のような政策が求められます。
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最低生活保障水準の底上げ(基礎年金の強化)
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地域支援ネットワークの再構築(ボランティア・自治体連携)
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高齢者向け「簡易就労」制度の拡充
まとめ
「繰越純増」のマイナス化は、単なる家計の問題にとどまらず、制度・地域・社会構造の複合的課題の反映です。今後は、統計上の数値を超えた生活実態の質的把握と、それを踏まえた支援策が不可欠です。赤字傾向にある世帯が自己責任にされるのではなく、社会全体での負担共有と共助の再構築が求められています。
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