無職世帯の1世帯あたりの家賃地代は全国平均で3427円と低水準ながらも、都市の規模によって大きな格差が見られます。大都市では4700円に対し、小都市Bではわずか1383円と約3.4倍の差があり、近年は小都市で急増傾向が見られます。本稿では、2018年以降の家賃地代の推移と背景、都市別・世代別の特徴、今後の課題や政策的な視点について章立てで分析し、持続可能な高齢者住宅政策のあり方を検討します。
家賃地代の家計調査結果
家賃地代の多い都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | |
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名称 | 全国 | 大都市 | 中都市 | 小都市A | 小都市B |
最新値[円] | 3427 | 4700 | 4584 | 1916 | 1383 |
前年月同比[%] | +27.45 | -5.849 | +75.36 | +26.64 | +162.4 |
家賃地代の少ない都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | |
---|---|---|---|---|---|
名称 | 全国 | 小都市B | 小都市A | 中都市 | 大都市 |
最新値[円] | 3427 | 1383 | 1916 | 4584 | 4700 |
前年月同比[%] | +27.45 | +162.4 | +26.64 | +75.36 | -5.849 |
これまでの家賃地代の推移


詳細なデータとグラフ
家賃地代の現状と今後
家計調査によると、無職世帯の1世帯当たりの家賃地代は2025年3月時点で全国平均3427円という低水準です。これは「無職世帯」全体を対象としているため、そもそも持ち家や公営住宅に住む世帯が多数派であることを反映しています。家賃支払いのない世帯が多ければ多いほど、この平均額は下がる構造にあります。
したがって、家賃を実際に支払っている世帯に限った場合、実際の負担額はかなり高くなると推察されます。本数値は「支出していない」世帯を含む全体の傾向を表しており、住居政策や社会保障制度の影響を敏感に反映しています。
都市別の支出差と背景
家賃地代の高い順に見ると、大都市(4700円)>中都市(4584円)>小都市A(1916円)>小都市B(1383円)となっています。このような差異の背景には以下のような要素が影響しています。
大都市・中都市の特徴
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民間賃貸住宅の供給が多く、地価や家賃相場が高い。
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高齢単身世帯の増加により、家族同居よりも賃貸生活が一般化。
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生活保護や家賃補助など福祉支援制度が整備されている分、制度的に賃貸生活が維持されやすい。
小都市A・Bの特徴
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持ち家比率が高く、住宅を相続・所有する世帯が多い。
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親族との同居が根強く、家賃という現金支出が発生しにくい。
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地価・家賃相場が低いため、仮に賃貸でも支出額が抑えられる。
前年比の変化に見る都市動向の変容
前年同期比を見ると、小都市B(+162.4%)や中都市(+75.36%)など、地方や中規模都市での家賃地代支出の急増傾向が顕著です。これは以下の要因が絡んでいる可能性があります:
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空き家の減少や老朽化による家賃負担の発生(修繕費や転居など)。
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高齢世帯の単身化・賃貸化の進行。
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高齢者向けサービス付き住宅(サ高住)など民間賃貸の選択肢の拡大。
一方、大都市では-5.849%と支出減。これは、福祉住宅への転居や家賃補助の適用増、あるいは新規入居が抑制された可能性があります。特に家賃が高くなりすぎると、支出回避や生活保護への移行も一因となりえます。
世代別・生活状況別の傾向
無職世帯=高齢者世帯が主であり、その多くは年金生活を基本とします。そのため家賃支出の有無や金額は、生活余裕度や生活の質に直結します。以下のような分類が可能です:
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配偶者と持ち家に暮らす世帯:家賃支出はゼロで生活は安定。
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一人暮らしで公営住宅在住:家賃は低額だが孤立や生活支援が課題。
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単身で民間賃貸在住:支出は多く、生活が不安定になりがち。
都市部では後者が増えており、特に団塊世代の高齢化と共に、賃貸を前提とする老後が一般化していく傾向にあります。
今後の見通しと政策的課題
日本の高齢化が進む中で、今後以下のような変化と課題が予想されます:
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地方でも賃貸高齢者世帯が増加し、小都市の家賃地代も緩やかに上昇。
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高齢者が生涯賃貸で暮らす割合が増加し、住宅費の固定費化が進行。
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住宅扶助や家賃補助の制度が求められるが、都市間で制度格差が生じる懸念も。
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老朽住宅の増加や空き家の賃貸化により、質と価格の両立が課題に。
加えて、今後の世代(団塊ジュニアや就職氷河期世代)は、年金受給額が減少する一方、持ち家を持たない世帯が多いことから、老後の家賃支出リスクが高い「住宅不安層」が拡大する可能性があります。
まとめ
無職世帯における家賃地代支出のデータからは、日本社会の高齢化、住宅構造、地域格差が浮き彫りになります。今後は「賃貸でも安心して老後を送れる社会」への転換が求められ、地域ごとの住宅政策や支援制度の強化が鍵となります。持ち家偏重から脱却し、誰もが老後に安定した住まいを確保できる社会インフラの再設計が急務です。
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