無職世帯の他の社会保障給付に見る地域格差と制度の課題

2025年3月時点の家計調査によると、無職世帯の「他の社会保障給付」は全国平均3,598円で、中都市が5,508円と最も高く、大都市は1,093円と最低でした。前年からの伸び率は中都市+260.5%、大都市は-64.8%と対照的で、地域ごとの制度利用状況に大きな差が見られます。本稿では、「他の給付」の実態とその背景を都市・世代別に分析し、制度の課題と今後の見通しについて体系的に論じます。

「他の社会保障給付」は、年金を除く公的給付全般を指し、生活保護、介護保険サービス給付、児童扶養手当、失業給付など多岐にわたります。無職世帯においては、これらの給付が生活の基盤を支える重要な要素となっています。公的年金とは異なり、年齢や働き方に関係なく多様な事情に対応するための仕組みであるため、都市や世帯の構成により大きく金額が変動します。

データから見る地域別の給付額と変化

最新の都市別支給額（2025年3月時点）

• 中都市：5,508円（前年比+260.5%）

• 小都市B：4,486円（+201.5%）

• 小都市A：3,334円（+64.16%）

• 大都市：1,093円（-64.8%）

この数値から見えてくるのは、都市規模と給付額の逆相関です。人口規模が小さい都市ほど支給額が多く、大都市は極端に低下しています。この差異は1体なぜ生まれているのでしょうか。

過去から現在までの推移と制度的背景

社会保障の地域偏在

地域によって社会保障制度の「使われ方」が大きく異なります。たとえば、生活保護制度は申請手続きや審査が厳しい自治体と、比較的柔軟に運用されている自治体で支給状況に差が出ます。また、高齢者向けの介護給付や障害者手当、母子家庭支援の利用率も自治体の福祉政策や人口構成に左右されます。

2020年代以降の急変

新型コロナウイルスの影響、物価高、失業や非正規雇用の増加などにより、「1時的な失業」や「生活困窮」に陥る世帯が増加しました。その結果、1部の都市では社会保障給付の支給が大幅に増加しました。

都市ごとの特徴分析

中都市 ― 急増の背景

中都市で給付額が急増しているのは、福祉サービスの拡充と行政の対応姿勢が柔軟であることが考えられます。高齢化が進行しており、介護保険による給付や住宅扶助の増加が影響している可能性もあります。

小都市B ― 地域密着型支援の効果

地方では、高齢者や障害者を対象とした「地域包括ケア」の仕組みが根付きつつあり、地方自治体独自の施策や申請支援の成果が数値に表れています。

小都市A ― 穏やかな伸び

給付額の上昇は見られるものの、中都市・小都市Bほどの急激な伸びではありません。福祉予算や対応力に限界がある可能性があり、また住民の申請意識や行政サービスの周知不足も影響している可能性があります。

大都市 ― 急減の理由

最大の問題は大都市の給付減少です。申請の煩雑さ、住民の孤立、福祉窓口の負担増などにより、実際に困窮していても支援にたどり着けない世帯が増加している可能性があります。また、福祉政策の効率化名目による選別給付の強化も、支給対象の縮小に影響していると考えられます。

世代間・属性別の利用傾向

高齢者世帯

介護サービス給付や医療費助成、住宅補助などで恩恵を受けやすく、特に地方都市では支給額の大きな要因になっています。

単身若年世帯・母子世帯

都市部では、母子家庭や失業中の単身若年層が多いにもかかわらず、申請率が低いために「見えない困窮」が増加しています。特に非正規雇用を背景にした低収入層では、支援制度の存在すら知らない例もあります。

今後の予測と課題

社会保障の需要は今後も増大

高齢化や物価高の影響を受け、無職世帯に対する他の社会保障給付の重要性はますます増していくと予測されます。

地域ごとの格差拡大

柔軟な制度運用を行う中都市・地方都市と、選別的・機械的な運用に傾く大都市との間で格差が広がる可能性があります。

「申請主義」の限界と包摂型福祉への転換

支援を必要とする人ほど申請にたどり着けない構造があり、今後は自動給付やアウトリーチ型支援が求められます。

まとめ ― 公平な保障への課題と展望

家計調査の結果から、無職世帯の「他の社会保障給付」は年金とは異なる動態を持ち、都市による支給額の格差が顕著に広がっています。これらは制度設計の問題だけでなく、地域社会の構造や行政姿勢の違いによるものです。今後、支援が「届くべき人に届く」仕組みの再構築が不可欠であり、特に都市部での孤立や制度の使いづらさの是正が急務です。