2025年3月時点の腕時計の役職別月間支出は、自営業主・その他が506円、雇用者が376円、無職が78円、会社役員が33円となり、いずれも前年比で大幅減。特に無職と会社役員の支出減少が著しい。スマートウォッチの普及や物価高騰による消費抑制、時計の社会的役割の変化が影響している。今後は役職ごとの価値観の多様化により、「機能性・ブランド・価格」の三極化が進み、時計市場の再編が加速する可能性が高い。
役職別の腕時計
1世帯当りの月間使用料
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | |
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名称 | 平均 | 自営業主・その他 | 雇用されている人 | 無職 | 会社などの役員 |
最新値[円] | 254.4 | 506 | 376 | 78 | 33 |
前年月同比[%] | -41.33 | -36.83 | -5.528 | -77.78 | -83.58 |
これまでの役職別の推移


詳細なデータとグラフ
役職別の現状と今後
2025年3月時点での腕時計に関する月間支出は、役職によって顕著な差を見せている。データを高い順に並べると以下の通り:
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自営業主・その他:506円(前年比 -36.83%)
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雇用されている人:376円(前年比 -5.528%)
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無職:78円(前年比 -77.78%)
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会社などの役員:33円(前年比 -83.58%)
全体平均は254.4円。どの層も前年同期比で大幅なマイナスとなっており、特に無職と役員の支出減が異常なまでに目立つ。これは、景気動向以上に腕時計というアイテムに対する価値の変化を示唆している。
各役職層に見る腕時計への価値観の違い
自営業主・その他層:信用と自己演出のためのツール
この層は従来から「見た目が信用に直結する職種」が多く、営業職・個人事業主・フリーランスが含まれる。腕時計は、
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商談時の信用補強
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自身の成功や品格を示す象徴
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ブランド品を通じた自己表現
という文脈で使われてきた。支出額は依然として最も高いが、前年比で約37%もの大幅減を記録している。これは以下の要因によるものと考えられる:
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原材料価格高騰により高級時計の価格がさらに上昇
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節税対策や経費処理に対する税務当局の監視強化
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対面営業の減少、リモートワークの浸透
「見せるための時計」が必須ではなくなりつつあるのがこの層の変化だ。
雇用者層:社会的儀礼と合理的選択の中間
会社員や公務員などの雇用者層は、「身だしなみの一部」として腕時計を選ぶ傾向がある。
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就職、昇進、転職といった人生の節目で購入されやすい
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ビジネスカジュアルの中でも無難な小物として機能
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Apple Watchなどのスマートウォッチへの移行も活発
前年比での減少率は約5.5%と最も減少幅が小さく、安定性がある層でもある。今後もコストパフォーマンスを重視した時計や、ファッション性と実用性を兼ねた商品がこの層に訴求していくと予測される。
無職層:実用主義と支出抑制の象徴
月間支出は78円と非常に低い上、前年比では-77.78%と大幅減。この層には高齢者、学生、求職中の人などが含まれる。
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既に時計を所持しているケースが多く、新たに購入する理由がない
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そもそも腕時計を身につける場が減少(外出頻度の減少)
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支出全般の見直しが進むなか、真っ先に削られるジャンル
特に、若年層ではスマホで時間を見る文化が一般化しており、腕時計そのものの必然性が薄れている。
会社などの役員層:逆転するブランド離れと実用主義
意外にも支出額が最も低いのは「会社役員」層であり、33円と全体平均の8分の1程度。しかも前年比では-83.58%という異常な落ち込みを示している。
これは一見不可解に見えるが、背景には以下のような構造がある:
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地位が確立されているため「見せる時計」の必要性が希薄
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実際の購買が会社経費や贈答品として処理されるケースもあり、家計支出に反映されにくい
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投資志向が強く、「腕時計ではなく資産」に支出が向かっている可能性
役員層はむしろ「腕時計を買わない」ことで、合理的な姿勢や脱・物質主義を表現している傾向すら感じられる。
腕時計と物価高・価値観の変化
2021年以降の急激な物価上昇により、嗜好品・耐久財の消費は全体的に鈍化している。腕時計はその代表例であり、
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高級ブランドの価格が円安や金属価格上昇で高騰
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生活防衛意識の強まりによる支出の絞り込み
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若年層の価値観の変化(シェア・レンタル志向、ミニマリズム)
といった背景がある。時計は「時間を見る道具」から「情報端末(スマートウォッチ)」へと意味合いを変え、従来の時計は徐々に贅沢品化しているとも言える。
今後の推移と戦略的な市場対応
今後の展開として予測されるのは、「三極化現象」である。
高価格・ブランド志向層(自営業主の一部など)
→ ラグジュアリーブランドは、資産性や希少性を重視する「投資対象」へ。 市場は縮小しながらも一定の支持層が残る。
機能重視・スマートウォッチ層(雇用者中心)
→ 健康管理・業務効率のためにスマートウォッチが標準化。 腕時計は「デジタル機器」として再定義される。
非消費・無関心層(無職や役員の一部)
→ 腕時計は不要と見なされ、「所有から距離を置く」傾向が強まる。 必要時にはレンタルや中古市場を利用。
このように、製品やマーケティングの設計も役職やライフステージに応じたセグメント戦略がますます重要になっていく。
まとめ|腕時計の「社会的意味」の再構築へ
かつては社会的ステータスの象徴、成人・就職の通過儀礼だった腕時計は、今や「分断された価値観の中の選択肢の一つ」となっている。役職によって異なる支出傾向は、その人々が時計に何を求めているのかを如実に表している。
今後は、「ファッション性」「情報端末性」「資産価値」といった目的ごとに、腕時計市場も再定義されていくだろう。
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