2002年から2025年までの和服支出データを年収別に分析すると、1000〜1250万円の層が最も高い支出を示す一方、200万円以下の層でも支出が急増しており、従来の「中間層中心」から「両極化」へと需要構造が変化していることが見て取れる。中間層の支出減少や若年層の消費行動変化、和装の文化的再評価も影響しており、今後はパーソナル化されたニーズへの対応が鍵になるだろう。
年収別の和服
1世帯当りの月間使用料
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 平均 | 1000~1250万 | 700~800万 | 800~900万 | 900~1000万 | 1500~2000万 | 500~600万 | 200~300万 | 600~700万 | 300~400万 | ~200万 |
最新値[円] | 237.8 | 972 | 616 | 373 | 282 | 153 | 83 | 80 | 55 | 27 | 11 |
前年月同比[%] | -41.36 | 250.9 | 40.64 | 48.61 | -72.49 | -12.57 | -41.13 | 321.1 | 103.7 | -91.82 | 266.7 |
これまでの年収別の推移


詳細なデータとグラフ
年収別の現状と今後
2002年1月から2025年3月までの和服に関する家計調査データを年収別に見ると、2025年3月時点での全体平均は237.8円。一方、所得別に見ると、支出額が大きいのは以下のような構成になっている:
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1000〜1250万円層:972円
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700〜800万円層:616円
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800〜900万円層:373円
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900〜1000万円層:282円
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1500〜2000万円層:153円
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500〜600万円層:83円
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200〜300万円層:80円
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600〜700万円層:55円
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300〜400万円層:27円
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〜200万円層:11円
支出額の増減率から見ると、低所得層と高所得層の一部で極端な増加が見られる。特に200〜300万円層(+321.1%)や〜200万円層(+266.7%)の急増は注目に値する。これは従来とは異なる文化的・機能的な消費傾向が現れた結果と推測される。
和服支出の歴史的推移と中間層の縮小
和服はかつて、七五三・成人式・卒業式などの儀礼消費が中心であり、主に年収500〜1000万円の中間所得層が主導していた。ところが近年、以下のような要因でこの層の支出は急減している:
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着物レンタルや中古市場の拡大で価格競争が激化
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経済的不安により中間層の可処分所得が縮小
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子育て・住宅ローンなどで消費の優先順位が変化
その結果、500〜600万円層:-41.13%、300〜400万円層:-91.82%と大幅な支出減が見られる。
高所得層による「ラグジュアリー消費」としての和装
年収1000〜1250万円層の支出(+250.9%)が圧倒的に高いことは、和服が趣味・嗜好性の高い「ステータス消費」へ移行している証左である。
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職人仕立てやオーダーメイドの着物を求める層
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茶道・日本舞踊・能楽など文化活動と密接なつながり
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SNS発信での見栄えや文化的イメージの演出
こうした層は、日常消費というよりも「自己表現の道具」として和服を再解釈している。
低所得層での支出増加の背景
一方、注目すべきは年収200〜300万円(+321.1%)、〜200万円(+266.7%)層の支出増加である。これは以下の理由による可能性がある:
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フリマアプリやリユース店での格安入手(1,000円以下で入手可能なことも)
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和風ファッションや「レトロブーム」に影響された若年層の着物アレンジ需要
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地域イベントやインバウンド観光対応のための衣装的着用
低価格で「和」を楽しむ文化的トレンドが、所得に関係なく消費意欲を刺激している構造が見て取れる。
今後の予測と和服産業への影響
今後、和服支出は以下の2方向に分岐していくと予想される:
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富裕層向けのプレミアム和服市場(職人技術・限定品・海外展開)
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低価格&カジュアル和服市場(日常着、観光衣装、ファッションアイテム)
一方で、中間層の回復には相応の社会的安定・育児支援・住宅政策が必要であり、短期的には復活しにくい。和服業界は、二極化する市場に対応した柔軟な商品展開とマーケティングが求められる。
文化的持続性と次世代への橋渡し
和服文化を次世代に継承していくには、教育・体験の場を増やすことも重要である。学校行事、地域振興イベント、修学旅行などを通じて、年収にかかわらず「着物に親しむ機会」を提供することが、長期的な消費拡大にもつながる。
まとめ
和服支出は、もはや年収の単純な関数ではなく、文化的価値・個人のライフスタイル・価格の選択肢の多様化によって形成されるようになっている。今後は、こうした多様な消費者像に合わせて商品展開を再構築し、伝統文化の持続と経済性の両立を図る必要があるだろう。
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