総務省の家計調査によれば、2025年3月時点の勤労世帯の可処分所得は全国平均42.62万円で、都市によって大きな差が見られた。広島市やさいたま市などが高水準を示す一方、神戸市や那覇市などは低水準にとどまる。都市間格差の背景には、地価・産業構造・年齢構成の違いがある。今後は高齢化や地域産業の再編により、所得構造も変化すると予想される。
可処分所得の家計調査結果
可処分所得の多い都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 全国 | 広島市 | さいたま市 | 千葉市 | 山形市 | 東京都区部 | 京都市 | 仙台市 | 川崎市 | 福井市 | 名古屋市 |
最新値[万円] | 42.62 | 53.66 | 52.84 | 51.32 | 51.32 | 50.13 | 49.95 | 49.35 | 49.27 | 48.34 | 47.59 |
前年月同比[%] | +1.574 | +45.71 | -5.184 | +11.15 | +22.68 | -13.06 | +21.35 | +13.82 | -12.7 | +2.728 | +14.47 |
可処分所得の少ない都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 全国 | 神戸市 | 那覇市 | 青森市 | 甲府市 | 長崎市 | 宮崎市 | 長野市 | 大阪市 | 鳥取市 | 盛岡市 |
最新値[万円] | 42.62 | 30.55 | 33.52 | 34.99 | 35.76 | 36.71 | 37.15 | 37.26 | 38.45 | 38.81 | 38.89 |
前年月同比[%] | +1.574 | -17.73 | +10.03 | -17.24 | +0.316 | -6.109 | +24.96 | -0.204 | +0.2 | -4.991 | -0.822 |
これまでの可処分所得の推移


詳細なデータとグラフ
可処分所得の現状と今後
可処分所得とは、給与などの総収入から税金や社会保険料などの非消費支出を差し引いた、いわば「自由に使えるお金」である。勤労世帯にとって、生活費、教育費、住宅ローン、レジャー、貯蓄などの原資になるため、可処分所得は生活の質に直結する最も重要な指標の一つだ。
可処分所得のこれまでの推移と経済環境との関係
2000年から2025年にかけて、日本の可処分所得はデフレ、リーマン・ショック、アベノミクス、コロナ禍、インフレといった複数の経済的転換点の影響を受けてきた。特にリーマン後の可処分所得の落ち込みは深刻で、その後も名目ベースでは改善の兆しを見せつつ、実質では物価上昇に追いつかない時期も多かった。
都市別の可処分所得格差の背景分析
2025年3月時点のデータでは、広島市(53.66万円)、さいたま市(52.84万円)、千葉市(51.32万円)などの都市が全国平均を大きく上回っている。これらの都市に共通するのは以下の要素である:
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製造・IT・医療など安定した雇用が多い
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教育水準が高く、共働き率が高い
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通勤圏が大都市に隣接しており、賃金水準が高い
一方で、神戸市(30.55万円)、那覇市(33.52万円)、青森市(34.99万円)などの都市は平均を下回っており、要因としては以下が挙げられる:
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地場産業の衰退や観光業偏重
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高齢化率の高さ
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非正規雇用率の高さや物価の高さに比べた収入の低さ
前年同期比の動きに見る地域ごとの「回復力」
広島市の+45.71%という大幅な上昇は一時的なデータ変動か、大規模な昇給や産業再編の影響が考えられる。一方で東京都区部(-13.06%)、川崎市(-12.7%)、神戸市(-17.73%)などの大都市圏でマイナスが見られるのは、物価や地価の高騰に対して実質所得が伸び悩んでいる可能性がある。
注目すべきは地方都市での回復力である。宮崎市(+24.96%)、山形市(+22.68%)などは、地方創生政策や雇用の多様化によって可処分所得が増えているとみられる。
世代間の特徴と可処分所得の違い
若年層(20〜30代)は賃金水準が低く、奨学金返済などの支出が多いため、可処分所得が低くなりがちである。一方で40〜50代は共働きが多く、子どもの独立後に支出が減るケースもあり、最も可処分所得が高い層だ。
また、高齢層は年金収入に依存するため、全体として可処分所得は低いが、固定支出も抑えられているため、生活水準は必ずしも低くないケースもある。
今後の可処分所得の見通しと課題
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高齢化の進展:消費支出は減るが、医療や介護費が増えるため、可処分所得の内訳が変化する。
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賃上げの波と物価上昇の攻防:2024年以降、日本企業が賃上げを進めているが、実質可処分所得の改善には物価抑制が不可欠。
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働き方の多様化:副業やフリーランスの台頭により、所得構造も複雑化している。
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地方分散型の経済成長:テレワークや移住支援策により、地方都市の可処分所得が伸びる可能性もある。
政策提言と都市間格差の是正に向けて
都市間の可処分所得格差は、単なる所得の問題ではなく、地域社会の活力や人口流出入にも直結する。今後は以下のような政策が重要となる:
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地域経済の底上げを狙った産業振興
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教育と子育て支援による将来世代の基盤強化
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税と社会保障制度の再設計による中間層の支援
結語
可処分所得の動向は、単なる家計のバロメーターではなく、日本社会全体の構造を映し出す鏡である。今後は都市間・世代間の格差の是正と、実質的な生活向上を目指す政策が不可欠であり、それが「豊かさの再分配」につながる鍵となるだろう。
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