二人以上世帯の医薬品支出の都市差と世代差:家計調査から見る動向と課題

保健医療



2008年から2025年までの家計調査に基づき、二人以上世帯の医薬品支出の動向を分析。2025年3月時点での全国平均は2,993円で、都市ごとの支出額には大きな差があり、富山市や広島市は5,000円台に達する一方、金沢市や名古屋市などは2,000円前後と低水準。都市間格差の背景には高齢化の進行度や生活習慣の違い、地域医療体制の差が影響しており、今後は高齢化やセルフメディケーションの浸透によってさらに二極化が進む可能性がある。

医薬品の家計調査結果

医薬品の多い都市

2025年3月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名称 平均 富山市 広島市 川崎市 宇都宮市 相模原市 佐賀市 長野市 東京都区部 津市 横浜市
最新値[円] 2993 5137 4428 4196 4111 4031 4019 3785 3773 3733 3427
前年月同比[%] +7.006 +75.68 +77.19 +42.33 +14.83 +34.14 +12.45 +35.96 +8.171 +10.74 +7.396

医薬品の少ない都市

2025年3月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名称 平均 金沢市 名古屋市 秋田市 岐阜市 岡山市 鹿児島市 山口市 静岡市 大分市 和歌山市
最新値[円] 2993 2035 2129 2141 2202 2247 2267 2347 2348 2405 2503
前年月同比[%] +7.006 +6.824 -26.94 -20.73 +13.1 -34.66 -5.463 -14.53 -12.22 -10.43 +6.465

 

これまでの医薬品の推移

医薬品の推移
最新のデータ

 

詳細なデータとグラフ

 

医薬品の保健医療現状と今後

医薬品への支出は、日々の健康管理、疾病予防、治療に直結する家計項目であり、保健医療費の中でも世帯の自律性が色濃く反映される分野です。2008年から2025年までの動向を見ても、医薬品の支出は1貫して地域・世代によるばらつきが大きく、医療制度の変化や消費者行動の影響を受けやすい特性があります。


2008年からの長期的推移と医薬品支出の特徴

2008年以降、医薬品の支出は以下のようなトレンドをたどってきました。

  • 2010年代前半:ジェネリック医薬品推進と節約志向 国の医療費抑制政策により、後発医薬品(ジェネリック)の使用が進んだ時期。消費者の価格意識が高まり、医薬品支出は伸び悩みました。

  • 2020年以降:新型コロナとセルフメディケーションの台頭 新型コロナウイルスの流行により、通院を控えて市販薬に頼る傾向が強まりました。発熱・風邪薬、消毒薬、ビタミン剤の購入が増加。

  • 最近の傾向:インフレと健康意識の高まりによる増加 物価上昇とともに、健康維持のためにサプリメントやOTC薬(1般用医薬品)への支出が増え、2025年3月の全国平均は2,993円に達しました。


都市ごとの医薬品支出の地域格差

今回の家計調査では、都市ごとの支出差が顕著でした。上位と下位の都市の比較から、以下のような特徴が浮かび上がります。

医薬品支出が高い都市の特徴

  • 富山市(5,137円)・広島市(4,428円)・川崎市(4,196円)など 高齢化率が高い、または持病のある高齢者が多く、定期的な市販薬やサプリメント購入が日常化。健康意識も比較的高く、ドラッグストアの利用頻度が高い傾向。

  • 都市的生活と交通利便性 車社会の都市はまとめ買いがしやすく、遠距離でも大型薬局にアクセスできるため、高額でも医薬品を購入しやすい環境にあります。

医薬品支出が低い都市の特徴

  • 金沢市(2,035円)・名古屋市(2,129円)・秋田市(2,141円)など 病院志向が強く、市販薬ではなく処方薬を通院で得る文化が残っている場合が多い。特に東北などでは医療機関への信頼が強く、セルフメディケーションの浸透が遅れている地域も。

  • 若年層中心の都市部 名古屋市のように若年層世帯が多い地域では、日常的な薬の購入頻度が低く、健康問題があっても軽症なら医薬品に頼らない傾向。


世代間の医薬品支出の傾向

高齢者世帯

  • 常用薬・サプリの購入頻度が高い 慢性疾患のための高血圧薬や整腸薬、関節用サプリメントなどを定期的に購入。薬剤の「まとめ買い」や通信販売の利用も増加傾向。

子育て世帯

  • 風邪薬・小児用医薬品の購入が中心 保育園・学校経由の感染症に対応する風邪薬、解熱剤、うがい薬の購入が多く、冬場を中心に支出が上昇。

単身高齢者・独身世帯

  • セルフメディケーション志向が強いが、支出は限定的 経済的余裕がない場合、価格重視で必要最小限の購入にとどまる傾向があります。


医薬品支出をめぐる課題と今後の見通し

セルフメディケーション税制の限界

2017年に導入されたセルフメディケーション税制は市販薬購入の促進を狙いましたが、制度の認知度や利用率は依然として低迷。今後、税制の簡素化や拡充がなければ、効果は限定的です。

ドラッグストアの地域格差

都市部はドラッグストアの価格競争が激しく、安価で手に入る反面、地方は選択肢が少なく、薬価が高め。こうしたアクセス格差も支出額に影響を与えています。

今後の予測:2極化とサブスクリプション型医薬品サービスの普及

  • 高齢化が進む地方都市では支出が引き続き増加傾向。

  • 1方、都市部の若年世帯では「定額制」健康サービスやAI健康相談との組み合わせにより、市販薬購入が抑制される可能性。

  • また、漢方やオーガニック医薬品など新たなジャンルの伸びも予測され、単なる価格以上に「価値ある支出」へのシフトが進むと見られます。


おわりに

医薬品支出は、単なる「健康維持費」ではなく、地域文化、世代特性、医療制度の影響を映す鏡でもあります。今後も都市間の差はさらに開く可能性があり、特に高齢化の進行が急な地方都市では支出の上昇が避けられません。1方で、若年層中心の都市では、テクノロジーの活用と選択的支出により、医薬品支出の低位安定が続くことが予想されます。家庭の医療リテラシーと制度設計が、これからの医薬品支出の行方を大きく左右するでしょう。

 

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