2025年3月時点の家計調査によると、勤労世帯の住宅設備修繕・維持費の全国平均は8,282円。富山市(43,940円)や神戸市(39,930円)が突出して高く、仙台市(255円)など多くの都市は1,000円未満と地域差が極端に広がっている。これには地域の気候条件や住宅構造、所有率、世代間の住宅への価値観の違いが影響している。今後は高齢化や中古住宅市場の拡大に伴い、修繕需要の再評価が進む可能性がある。
設備修繕・維持の家計調査結果
設備修繕・維持の多い都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 全国 | 富山市 | 神戸市 | 山形市 | 甲府市 | 鳥取市 | 津市 | 盛岡市 | 奈良市 | 名古屋市 | さいたま市 |
最新値[円] | 8282 | 43940 | 39930 | 26440 | 20360 | 16910 | 16230 | 13660 | 9676 | 8909 | 8762 |
前年月同比[%] | +3.784 | +12240 | +1563 | +3435 | +106.8 | +268.8 | +539.5 | +553.1 | -80.76 | +64.37 | +304 |
設備修繕・維持の少ない都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 全国 | 仙台市 | 山口市 | 那覇市 | 高知市 | 静岡市 | 北九州市 | 秋田市 | 松江市 | 高松市 | 長野市 |
最新値[円] | 8282 | 255 | 275 | 320 | 439 | 507 | 648 | 894 | 909 | 943 | 1040 |
前年月同比[%] | +3.784 | -31.45 | -87.64 | -23.26 | -86.13 | -96.01 | -80.49 | -65.51 | +23.51 | +131.1 | -72.78 |
これまでの設備修繕・維持の推移


詳細なデータとグラフ
設備修繕・維持の現状と今後
勤労世帯にとって設備修繕・維持費は、住宅資産の長期的な保全と安全・快適な生活環境の維持に直結する支出である。2000年代から長く続いた平均水準の低迷は、新築志向や住宅ローン返済に重きを置いた支出構造の反映といえる。
ところが2025年3月の家計調査では、全国平均が8,282円とそれまでの平均水準を大きく上回る都市も登場し、支出の二極化が顕著となった。
支出額が極端に高い都市の背景分析
富山市(43,940円)、神戸市(39,930円)の特異な伸び
富山市では前年比+12,240%、神戸市も+1,563%と、設備修繕費の急増が目立つ。これには以下のような要因が関係していると考えられる。
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積雪地域における住宅損傷リスク:富山のような豪雪地帯では、屋根や外壁、断熱設備などの劣化が激しく、定期的な修繕が不可欠となる。
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中古住宅や空き家の再活用:神戸市は阪神・淡路大震災の復興以降、住宅の再整備・リフォームへの関心が根強く、近年の「リノベーション需要」が再燃している可能性がある。
さらに、高所得層の持ち家率が高いエリアでは、自発的な修繕投資が家計の中に組み込まれている傾向も強い。
支出額が低迷する都市の共通要因
仙台市(255円)、山口市(275円)、那覇市(320円)など、多くの都市では修繕支出がほぼ皆無に近い。これらの地域に見られる傾向は以下の通り。
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持ち家比率の低さ:賃貸住宅の割合が高い都市では、修繕は大家・不動産管理会社の責任となるため、勤労世帯の負担としては計上されにくい。
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温暖な気候:那覇市など温暖な地域では、冬場の凍結や積雪による住宅の損耗が少なく、緊急性のある修繕が発生しにくい。
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建築年数の新しさ:都市再開発が進んだ地域では、住宅が新しく、修繕の必要性がまだ少ない。
世代間の設備修繕に対する意識の違い
若年世代では住宅を「消費財」と捉え、メンテナンスにコストをかけることに対する意識が低い傾向がある。一方で中高年層は、住宅を「資産」として保全する意識が強く、将来的な売却や相続を見据えて修繕に前向きである。
この世代間ギャップは、今後の設備修繕支出の地域的偏りにも直結する要素であり、特に高齢化率が高まる地方都市では修繕意欲が逆に高まる可能性もある。
今後の推移と予測
今後の設備修繕・維持費の動向については以下のような傾向が見込まれる。
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中古住宅市場の拡大による支出増:リフォーム需要の高まりにより、地方中核都市や郊外での修繕支出が今後増加する可能性がある。
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災害リスクに対する備えとしての修繕:地震や気候変動のリスクを受け、防災目的の修繕投資が増加する都市も出てくるだろう。
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省エネ設備への切り替え:高騰する電気・ガス料金への対抗策として、断熱リフォームや給湯器更新などの省エネ対応修繕が進むと考えられる。
一方で、所得停滞と物価高が続けば、優先度の低い支出として後回しにされる世帯も多く、地域格差は今後も拡大する見通しだ。
政策的視点と支援の必要性
現状の修繕支出の極端な地域差を是正するには、以下のような支援が必要とされる。
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自治体による補助制度の整備:住宅改修補助や省エネ設備導入補助などを通じて、修繕の初期費用を軽減。
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住宅診断(ホームインスペクション)の普及:点検文化の普及により、修繕の必要性を事前に把握できるようにする。
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空き家対策と連動したリフォーム支援:地方の空き家問題と修繕支出をリンクさせ、地域再生と住宅資産価値向上を同時に図る。
まとめ
勤労世帯の設備修繕・維持費は、都市ごとに大きな差があり、生活環境や地域性、世代の価値観の影響を色濃く受けている。修繕支出の少なさが必ずしも「健全さ」を意味するわけではなく、将来的な住宅の価値維持・安全性確保の観点から、全国的な意識の底上げと公的支援の拡充が求められている。
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