勤労世帯の「工事その他のサービス」支出の都市間格差と今後の見通し

世帯・住宅



2025年3月時点の家計調査では、勤労世帯の「工事その他のサービス」への支出が全国平均で6605円となり、富山市や神戸市など一部都市で異常な増加が見られた。一方、仙台市や山口市などでは支出が激減している。本稿では、過去の動向、都市や世代による違い、背景にある制度や生活様式の変化、今後の支出傾向の予測を、章立てで丁寧に解説する。

工事その他のサービスの家計調査結果

工事その他のサービスの多い都市

2025年3月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名称 全国 富山市 神戸市 甲府市 盛岡市 さいたま市 松山市 千葉市 奈良市 川崎市 熊本市
最新値[円] 6605 43740 37420 19150 11400 8616 5473 4753 3662 3505 3456
前年月同比[%] +114.1 +15630 +1514 +426 +482.9 +417.8 +270.3 +73.85 -76.74 +178 -78.97

工事その他のサービスの少ない都市

2025年3月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名称 全国 仙台市 山口市 那覇市 大分市 山形市 高知市 静岡市 津市 秋田市 高松市
最新値[円] 6605 27 70 141 271 296 405 455 520 546 556
前年月同比[%] +114.1 -89.02 -96.79 -17.54 -96.47 -51.55 -70.42 -87.98 -77.16 -74.99 +119.8

 

これまでの工事その他のサービスの推移

工事その他のサービスの推移
最新のデータ

 

詳細なデータとグラフ

 

工事その他のサービスの現状と今後

「工事その他のサービス」とは、住宅における改装・リフォーム・外構整備・エクステリア設置・防犯・耐震対策などの工事サービス全般を指し、緊急性が低いが中長期的な住宅維持管理に関わる出費である。これは設備修繕・維持と密接に関係するが、より大規模または計画的な改装・改修工事に分類される。


これまでの全国的な支出動向(2000~2025)

2000年代初頭から2020年ごろまで、「工事その他のサービス」への支出は比較的安定または微減傾向だった。これは新築住宅の普及や、住宅ローン返済を優先する若年世帯が多かったことが影響している。しかし、2020年以降はコロナ禍を契機に「在宅時間の増加」と「リフォーム需要の高まり」から支出が上向いた。また、築年数の長い住宅が増加したことで、自然と改修の必要性が生じてきた。


都市間の顕著な格差とその背景

高額都市:富山市・神戸市・甲府市

富山市(43740円、+15630%)や神戸市(37420円、+1514%)では、過去に比して桁違いの支出増が見られた。これは「集合住宅の耐震・外装大規模修繕工事」の一斉実施や、「補助金制度を活用したリフォーム工事」の集中が考えられる。また、地元の建設業者の受注状況や公共支援策の影響も強い。

低額都市:仙台市・山口市・那覇市など

仙台市(27円)や山口市(70円)は、極端な低水準で推移している。これは、都市の構造的に賃貸比率が高く、持ち家率が低いため、工事費を自分で負担する世帯が少ないことが要因。また、高齢化や人口流出により、工事需要が鈍化している側面もある。


世代間の傾向と価値観の違い

高齢世代(60代以上)は、退職後の生活資金に余裕があればバリアフリーや設備更新に工事費を投じる傾向がある。一方、30~40代の現役世代では、教育費・住宅ローン・物価高騰による負担増から工事費用を後回しにしやすい。また、Z世代以降では「賃貸志向」や「転居前提のライフスタイル」が広がっており、住宅の長期維持よりも可変性を重視する傾向が強い。


制度・社会要因の影響

地方自治体によるリフォーム助成金、防災対策補助、国の省エネ補助金(断熱窓・高効率設備の導入支援)などが工事需要を喚起している。一方、これらの制度が「使いやすい都市」と「手続きが煩雑な都市」で差が出ることで、支出の地域格差を生んでいる。


今後の見通しと政策的課題

今後数年間の支出傾向:全国的には「底堅く増加傾向」と見込まれる。とくに築30年以上の住宅が今後急増するため、構造補修や耐震化ニーズが高まる。・政策課題:高齢者や低所得世帯への工事費補助の拡充、空き家対策としてのリフォーム支援制度の強化などが必要。・技術の進歩:工事の省力化・低価格化が進めば、支出の裾野がさらに広がる可能性がある。


まとめ

勤労世帯の「工事その他のサービス」支出は、地域ごとの政策、建物の老朽化度合い、世帯構成と世代特性に大きく左右される。今後はリフォーム市場がさらに拡大する一方で、自治体による格差是正策の重要性も増していく。将来的には、住環境の安全性と快適性を維持するための最低限支出として、多くの世帯にとって恒常的な支出項目になる可能性が高い。

 

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