2025年3月時点の出産以外の入院料は、年収200〜600万円の中間層で最も高く、前年より大きく増加しています。一方、1500万円以上の高所得層や200万円未満の低所得層では支出が抑えられています。今後も中間層の負担が増える傾向が見込まれ、医療制度はこの層の支援策強化が必要です。医療格差が年収別に広がる構造への対処が求められます。
年収別の 出産以外の入院料
1世帯当りの月間使用料
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
名称 | 平均 | 200~300万 | 1500~2000万 | 800~900万 | 500~600万 | 300~400万 | 1250~1500万 | 400~500万 | 1000~1250万 | ~200万 | 600~700万 |
最新値[円] | 1805 | 2384 | 2267 | 2250 | 2240 | 2164 | 2043 | 1634 | 1633 | 1621 | 1451 |
前年月同比[%] | -0.347 | -0.0838 | -31.24 | +42.41 | +60.46 | -6.401 | +20.89 | -26.99 | -31.39 | +8.211 | +53.54 |
これまでの年収別の推移


詳細なデータとグラフ
年収別の現状と今後
医療費の支出は一般に年収と連動する傾向があるとされてきましたが、実際には必ずしも比例関係にはなっていません。特に「出産以外の入院料」という限定的な医療支出では、生活の余裕度、医療サービスへのアクセス性、保険の利用状況、年齢構成といった多様な要因が複雑に絡んでいます。本稿では2025年3月時点のデータを基に、年収別の入院料支出の実態とその背景を分析し、今後の動向を予測します。
最新の年収別入院料支出とその分布
2025年3月時点における年収別の出産以外の入院料支出(月間・1世帯当たり)は以下の通りです。
年収帯(万円) | 支出額(円) | 前年同期比(%) |
---|---|---|
200~300 | 2,384 | -0.08 |
1500~2000 | 2,267 | -31.24 |
800~900 | 2,250 | +42.41 |
500~600 | 2,240 | +60.46 |
300~400 | 2,164 | -6.40 |
1250~1500 | 2,043 | +20.89 |
400~500 | 1,634 | -26.99 |
1000~1250 | 1,633 | -31.39 |
~200 | 1,621 | +8.21 |
600~700 | 1,451 | +53.54 |
平均は 1,805円であり、中間層~やや低所得層(200~600万円)に高支出傾向がある一方で、高所得層の一部や最貧層では支出が比較的抑制されている傾向が見られます。
各年収層の特徴と入院料の背景
① 200~300万円層:医療ニーズが集中する層
この層は年金生活者や非正規雇用世帯も含まれ、高齢者比率が高いため入院機会が多い一方、医療費助成制度の活用により費用抑制が働いている可能性があります。支出水準は高いが前年からの変化はほぼゼロです。
② 500~900万円層:急激な支出増加層
800~900万円(+42.41%)、500~600万円(+60.46%)、600~700万円(+53.54%)と急増傾向にあります。これらの層は企業健保の対象となる中間所得層で、医療利用への意識や余裕のある治療選択が増えた可能性があります。
③ 1500万円超:支出減少の高所得層
1500~2000万円(-31.24%)、1000~1250万円(-31.39%)では大きく支出が減少。これは民間医療保険の充実や人間ドック・予防医療の積極活用による入院回避が進んだ結果と考えられます。
④ ~200万円:最低所得層の支出
支出額は相対的に抑えられており(1,621円)、前年度比は+8.21%。医療扶助や公的支援により、医療費の自己負担を最小限に抑えられている世帯が多いと推測されます。
これまでの推移と構造的問題
過去20年にわたって、医療費自己負担額は抑制傾向にある一方、入院1回あたりの単価や医療の高度化は進行しています。年収別に見ると、中間所得層がもっとも不安定で負担が増えやすい構造です。高所得層は保険や予防医療で支出抑制が可能である一方、低所得層は公的制度により守られており、いわば「支出が集中するのは中間層」という歪みが浮き彫りになっています。
また、高所得層では自由診療や先進医療へのアクセスにより「統計に現れにくい医療支出」が増加している可能性もあり、今後はその把握が課題です。
今後の見通しと政策的課題
中間層の負担増は続く
企業健保や共済の縮小、医療費の自己負担増が進めば、最も支出増が起きやすいのは500~900万円層と予想されます。
高所得層の医療の「二極化」
一部は民間医療保険で安定的に医療サービスを受けつつ、もう一部は高額な自由診療に流れ、統計上の支出に現れなくなるため、数字上の支出は減少していくと考えられます。
低所得層の公的支援の継続が鍵
高齢化や非正規雇用者の増加により、~200万円層の医療需要はむしろ増えます。自治体・国による医療扶助政策がこの層の生活安定に直結します。
まとめと提言
今後の医療制度改革においては、中間層の医療費負担への配慮が最も重要な論点となるでしょう。高齢化による医療ニーズの増大に加え、医療資源の配分の公正さや地域差の是正、予防医療の推進がセットで進められなければ、医療格差は年収に応じて拡大します。統計データが示すのは、単なる「収入に応じた支出」ではなく、「制度の恩恵を受けにくい層が最も支出している」という逆説的な構造です。
コメント