2008年以降の家計調査によると、二人以上世帯における交通費は全国平均5960円ながら、都市間で大きな差があり、さいたま市や広島市では1万円を超える一方、和歌山市などでは2000円未満にとどまる地域もある。公共交通インフラや自家用車依存度、通勤・通学スタイルの違い、世代ごとの移動ニーズが影響している。今後は高齢化、地方の交通弱者問題、都市部の再開発による変化が鍵となる。
交通の家計調査結果
交通の多い都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 全国 | さいたま市 | 広島市 | 奈良市 | 東京都区部 | 福岡市 | 北九州市 | 千葉市 | 相模原市 | 川崎市 | 鹿児島市 |
最新値[円] | 5960 | 13940 | 12850 | 12010 | 11900 | 11890 | 11500 | 11000 | 9111 | 9062 | 9052 |
前年月同比[%] | -2.757 | +77.6 | +213.7 | -33.22 | -1.969 | +158 | +98.93 | -17.93 | +46.95 | +6.687 | +88.66 |
交通の少ない都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
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名称 | 全国 | 和歌山市 | 高知市 | 鳥取市 | 富山市 | 青森市 | 佐賀市 | 金沢市 | 秋田市 | 甲府市 | 松江市 |
最新値[円] | 5960 | 1532 | 1623 | 1860 | 1912 | 2172 | 2246 | 2312 | 2637 | 2667 | 2705 |
前年月同比[%] | -2.757 | +1.997 | -22.16 | -0.215 | -59.74 | +36.43 | -0.266 | -32.61 | +4.56 | +10.89 | -11.28 |
これまでの交通の推移


詳細なデータとグラフ
交通の現状と今後
交通費は、家計の中でも地域差と生活スタイルによる変動が大きい支出項目です。家計調査はこれを定量的に示す貴重なデータ源であり、地域経済や移動行動の変化を読み解く手がかりとなります。本稿では、2008年1月~2025年3月までの家計調査結果に基づき、都市ごとの特徴、世代間の傾向、そして今後の予測について解説します。
全国平均と大都市圏の交通費の動向
全国平均は直近で5960円。これに対し、さいたま市(13940円)や広島市(12850円)などの都市では平均の2倍以上となっています。これらの都市では以下のような特徴が見られます:
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都市圏勤務による鉄道通勤の多さ:特に首都圏や関西圏では定期代が大きな負担となる。
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交通系ICカード利用率の高さ:可視化されにくい少額利用も調査に反映されやすい。
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都市再開発や郊外居住による通勤距離の増加。
これに対し、地方都市では自家用車中心の生活が一般的であるため、ガソリン代や駐車場代などは通信費と合わせた広義の「交通・通信」に含まれる傾向があり、純粋な交通費では相対的に低く出ます。
交通費が少ない都市の背景
和歌山市(1532円)、高知市(1623円)などでは、交通費が非常に低く抑えられています。要因は以下の通りです:
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自動車中心社会:日常的な移動が自家用車中心のため、公共交通利用が少ない。
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移動範囲の小ささ:都市の規模が小さく、徒歩や自転車で移動可能な距離に生活圏が集中している。
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高齢化:運転免許を返納した高齢者が増え、移動自体が減少している可能性。
また、都市部に比べて公共交通の便が悪いため、そもそも移動の機会が制限されている点も見逃せません。
増加・減少傾向から見る地域特性
都市ごとの増減率からも興味深い傾向が見られます。
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急増した都市(広島市+213.7%、福岡市+158%) 都市再開発、商業圏の拡大、通勤・通学の回数増加などが要因と考えられます。
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減少した都市(富山市-59.74%、奈良市-33.22%) LRTや市電などの運賃値下げ・定期券の見直し、高齢化による移動控えが影響している可能性があります。
地方の減少傾向には、人口流出や公共交通の縮小も背景にあると見られます。
世代別の交通費の使われ方と背景
世代間でも交通費の使い方は異なります。
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若年層(20代〜30代):都市部での定期代やフリーランスの移動費(電車・バス)が中心。
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中年層(40代〜60代):通勤・子どもの送迎などで定期的な支出がある。
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高齢層(70代以上):運転免許返納後、移動自体が減少。公共交通への依存度が高まるが、回数は少なめ。
このようにライフステージと地域の交通インフラが密接に関わっており、全国一律の支援策では対応が難しい状況です。
今後の推移予測と政策のあり方
今後、交通費は以下のように推移していくと予測されます。
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都市部では上昇傾向:人口集中と鉄道・バスの運賃改定が続く見通し。
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地方では低迷または下降:高齢化と人口減によって公共交通の維持が困難に。
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若年層ではサブスク化:月額制交通パスや電動キックボードなど新サービスが増加。
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高齢者支援の拡充:自治体による移動支援(無料バス券など)の重要性が高まる。
政策的には、地方の移動弱者への対応と都市部の通勤・通学負担の軽減の両立が求められます。
おわりに
交通費は地域・世代・ライフスタイルのすべてを反映する、生活費の中でも非常に動態的な支出です。今後の少子高齢化や都市再開発、移動サービスの進化に伴い、ますますその差は拡大していく可能性があります。家計調査から得られるこのようなデータを基に、地域に合った政策設計と個々の生活設計が求められる時代に入っています。
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