総務省の家計調査に基づき、2008年から2025年までのデータをもとに、二人以上世帯の経常消費支出の全国平均や都市別傾向を詳細に分析。広島市や富山市など支出が高い都市の特徴、逆に支出の少ない神戸市や津市などの課題を考察。物価上昇や高齢化、都市間の生活コスト差などから今後の消費動向の予測と政策的な示唆を提示します。
経常消費支出の家計調査結果
経常消費支出の多い都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
名称 | 全国 | 広島市 | 富山市 | さいたま市 | 東京都区部 | 山形市 | 川崎市 | 大津市 | 奈良市 | 長野市 | 札幌市 |
最新値[万円] | 23.91 | 29.47 | 28.55 | 26.86 | 26.84 | 26.48 | 25.99 | 25.63 | 25.37 | 24.96 | 24.65 |
前年月同比[%] | +7.228 | +29.32 | +19.94 | +0.45 | +5.449 | +4.225 | +3.724 | +12.74 | +7.678 | +12.63 | +6.779 |
経常消費支出の少ない都市
2025年3月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
名称 | 全国 | 神戸市 | 那覇市 | 津市 | 長崎市 | 和歌山市 | 宮崎市 | 大分市 | 佐賀市 | 甲府市 | 前橋市 |
最新値[万円] | 23.91 | 20.01 | 20.06 | 20.28 | 20.64 | 20.85 | 21.25 | 21.4 | 21.77 | 22.06 | 22.1 |
前年月同比[%] | +7.228 | -5.96 | +4.668 | -5.15 | +7.316 | +9.327 | +9.916 | -3.97 | +4.077 | +4.097 | +6.305 |
これまでの経常消費支出の推移


詳細なデータとグラフ
経常消費支出の現状と今後
経常消費支出とは、世帯が日常生活を維持するために継続的に支出する費用を指し、「除く住居等」支出に比べ、住居費や光熱・通信費、食費、交通費、教育費など広範な日常的コストが含まれます。家計全体の健全性や地域経済の活力を反映する重要な指標です。
特に二人以上世帯では、家族構成や就業状況、子育てや介護の有無などが支出に大きな影響を与えます。2008年以降の長期的なデータは、リーマンショック後の消費冷え込み、消費税増税、コロナ禍、物価高騰の影響を色濃く反映しています。
最新データに見る地域別の経常消費支出
2025年3月時点の全国平均は23.91万円ですが、都市による差が顕著です。
高い都市(支出の多い都市)
都市 | 金額(万円) | 前年同期比 |
---|---|---|
広島市 | 29.47 | +29.32% |
富山市 | 28.55 | +19.94% |
さいたま市 | 26.86 | +0.45% |
東京都区部 | 26.84 | +5.449% |
山形市 | 26.48 | +4.225% |
これらの都市では、比較的高所得層や教育・医療支出が多い家庭が多い傾向が見られます。特に広島市や富山市では前年からの伸びが著しく、家計に余裕が生まれやすい地域性や、生活基盤の整備、地場産業の安定が影響していると考えられます。
低い都市(支出の少ない都市)
都市 | 金額(万円) | 前年同期比 |
---|---|---|
神戸市 | 20.01 | -5.96% |
那覇市 | 20.06 | +4.668% |
津市 | 20.28 | -5.15% |
長崎市 | 20.64 | +7.316% |
これらの都市では、高齢者世帯の比率が高く、消費が抑えられていることが一因です。また、地元経済の停滞や、所得の低迷も背景にあります。
過去のトレンドと社会背景
2008年から現在までの流れを見ると、日本の経常消費支出は以下のような波を描いてきました。
-
2008~2012年:リーマンショックの影響で消費が縮小
-
2014年・2019年:消費税率引き上げによる駆け込み需要とその反動
-
2020~2021年:コロナ禍による外出自粛・支出抑制
-
2022年以降:エネルギー価格高騰や物価上昇による生活コスト増
これにより、実質的な消費余力が縮小し、とくに中低所得世帯では節約志向が強まりました。一方で、高齢者世帯は貯蓄を取り崩して支出を維持する傾向が見られ、世代間格差が広がっています。
都市間格差とその要因
経常消費支出の都市間格差は、主に以下の要因で説明できます。
-
平均所得の差
-
大都市や地方中核都市では所得水準が高く、消費性向も高くなりがちです。
-
-
生活コストの差
-
地価や物価が高い都市では、必然的に住居費や交通費、教育費も高騰し、支出が増えます。
-
-
世帯構成の違い
-
子育て世帯が多い地域では教育費や外食費が増加し、支出が高くなります。
-
-
地域経済の活力
-
地元産業が元気な都市では消費も活発。一方、過疎化や人口減が進む地域では支出が伸びにくい傾向があります。
-
世代間の特徴と支出の傾向
-
若年層・子育て世帯:教育・育児関連費用が多く、また住宅ローンや自家用車保有に伴う支出が重くなりやすい。
-
中高年層:所得はピークだが、老後を見据えた貯蓄志向が強まり、支出抑制傾向。
-
高齢世帯:医療費や介護サービスへの支出が増える一方で、食費や娯楽費を控える傾向。
今後の経常消費支出の見通し
以下のような要因が、今後の動向を左右します。
-
物価上昇圧力の継続
-
賃金が上がらないままインフレが進めば、実質消費は低迷します。
-
-
高齢化の加速
-
消費意欲の低下とともに、地域経済にも波及します。
-
-
共働き世帯の拡大
-
働く女性の増加によって支出の内容が変化し、時短商品や外食、教育投資が増える可能性があります。
-
-
デジタル消費の定着
-
通販やサブスクリプション型サービスへの支出割合が増え、消費の質が変わる可能性があります。
-
政策的な課題と対応策
-
地域間格差の是正
-
地方都市への投資促進、インフラ整備、デジタル環境の強化が鍵。
-
-
若年世帯の消費支援
-
子育て支援、教育費軽減、住宅取得支援などによって可処分所得を増やす。
-
-
高齢者の購買力活用
-
安心して消費できる環境整備(医療・福祉・バリアフリー化)と、シニア向け市場の活性化が求められます。
-
まとめ
経常消費支出は、地域や世代、時代背景によって大きく変動する社会的な「鏡」と言えます。今後、持続可能な家計運営と地域経済の活性化のためには、都市間格差を意識した政策と、世帯構成に応じた柔軟な支援策が不可欠です。
都市別の動向を注視しつつ、より生活実感に沿った政策立案が求められています。
コメント