世界のファット生産は2023年に432.6ktで、インドとパキスタンが8割以上を占める。中国も急成長中である一方、ネパールやエジプトでは減少傾向。気候変動やインフラ課題を抱えつつ、アジア主導の消費増加と技術革新による成長が期待される。
生産量のデータとグラフ
ファット生産量の最大と最新
世界 | インド | パキスタン | 中国 | エジプト | ネパール | ベトナム | フィリピン | |
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最新 | 2023年 | 2023年 | 2023年 | 2023年 | 2023年 | 2023年 | 2023年 | 2023年 |
最大期 | 2023年 | 2023年 | 2023年 | 2023年 | 2015年 | 2022年 | 1990年 | 2007年 |
最新値[kt] | 432.6 | 274.3 | 85.4 | 53.54 | 5.832 | 2.33 | 2.163 | 1.771 |
最大値[kt] | 432.6 | 274.3 | 85.4 | 53.54 | 11.26 | 3.882 | 2.855 | 3.086 |
前年比[%] | 2.449 | 2.759 | 2.954 | 4.79 | -6.013 | -39.97 | 2.58 | -2.893 |
全体比[%] | 100 | 63.41 | 19.74 | 12.38 | 1.348 | 0.5387 | 0.5001 | 0.4094 |
これまでの推移


詳細なデータとグラフ
ファット生産量についての推移と展望
ファット(乳脂肪)は、乳製品の品質やカロリー密度を決定づける主要成分であり、バターやクリームなどの加工品に不可欠な原料である。世界の農業においてファットの生産は、経済成長、食文化の変化、健康志向の高まりとともにその役割が進化してきた。本稿では、1961年から2023年までの長期データをもとに、世界と主要生産国の動向を概観し、今後の課題と展望を述べる。
世界全体の生産推移と概況
2023年の世界全体のファット生産量は432.6キロトン(kt)となり、前年比+2.449%の増加を記録した。これは中長期的に見れば安定成長の範疇にある。過去数十年で特にアジア圏の生産と消費が急増しており、現在ではインドとパキスタンの2国で世界の約83%を占める構造が形成されている。
主要生産国の現況と特徴
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インド(63.41%) 圧倒的な生産量を誇り、2023年は274.3ktで前年比+2.759%と安定成長。国内では「ギー(精製バター)」が広く消費されるほか、宗教的・文化的要素から乳脂肪製品の需要が常に高い。家庭飼育の牛や水牛が主な生産源であり、農村経済の中核を成す。
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パキスタン(19.74%) インドに次ぐ生産国で、2023年は85.4kt、前年比+2.954%と好調。生産形態や消費スタイルもインドに類似しており、家庭単位の小規模酪農が多い。冷蔵インフラの整備が遅れているため、ロスや品質低下も課題。
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中国(12.38%) 近年急速に成長し、2023年は53.54kt、前年比+4.79%と最も高い伸び率を記録。都市部での高脂肪乳製品需要の拡大が背景にある。大規模酪農への集約化が進み、バターやチーズの国内製造比率も向上している。
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エジプト(1.348%) 2023年の生産は5.832ktで、前年比-6.013%と減少。経済不安や飼料コスト高騰が影響している。伝統的な乳製品(ラブネやバター)需要は根強いが、現代的な酪農の発展は限定的。
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ネパール(0.5387%) 前年比-39.97%と大幅な減少。農村部のインフラ問題や気候の影響、酪農支援策の不十分さが背景にある。山岳地帯では牛の飼育が制限され、乳脂肪製品の供給が不安定。
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ベトナム(0.5001%) 2023年の生産量は2.163kt、前年比+2.58%。近年は都市部での高級乳製品需要が増加しており、国内大手企業による技術投資も進む。今後の成長が期待される。
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フィリピン(0.4094%) 生産量は1.771kt、前年比-2.893%とやや減少。輸入依存度が高く、国内酪農の規模は限定的。温暖湿潤な気候が牛の飼育に不向きであり、外的環境による制約が大きい。
世界が抱える課題
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気候と環境の不安定性 干ばつ、洪水、高温などがファット生産に大きな影響を与えており、特に南アジアとアフリカでは深刻。
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生産と消費の地域格差 インド・パキスタンに偏った生産構造は、世界的な供給のリスクを高める。多国間での生産分散が課題。
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品質管理と衛生インフラの未整備 特に南アジアでは、生産は多くても加工や保存が不十分であり、品質劣化や健康リスクが存在。
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国際価格の不安定性 バター価格など乳脂肪製品は国際市場で価格変動が激しく、農家の収入安定性に影響。
今後の予測と展望
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アジア主導の成長継続 中国やインドの都市部を中心に、高脂肪乳製品の消費はさらに拡大が見込まれる。健康志向とともにプレミアム商品の開発も加速。
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技術革新の導入 搾乳ロボットやバイオ技術により、生産効率と品質向上が進む。特に都市型酪農における導入が鍵。
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サステナブル生産への移行 温室効果ガス排出の抑制、飼料の持続可能性、動物福祉の観点から、国際的な圧力が高まる。
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国際連携の必要性 技術支援やインフラ整備における国際協力が求められ、特にネパールやアフリカ諸国での展開が期待される。
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