シャツ・セーター支出の地域格差と今後の消費動向【家計調査分析】

二人以上世帯のシャツ・セーター支出は都市間で大きな格差があり、高知や広島では大幅な増加、北九州などでは大きく減少している。世代やライフスタイルの違いも消費傾向に影響し、今後は環境配慮や機能性志向、中古市場の拡大が支出に影響を与えると予想される。

衣類支出は家計において衣食住の1端を担う基本的な支出項目のひとつであり、特に「シャツ・セーター」は、季節の変化やファッションの流行、ライフスタイルの変化と密接に関係しています。特に2人以上世帯では、世帯構成の多様性（子育て世帯、高齢世帯、共働き世帯など）が消費傾向に大きく影響します。

過去15年の動向と支出の平均値推移

2008年から2025年3月までの家計調査データを俯瞰すると、シャツ・セーターの支出は2000円前後を軸に緩やかな増減を繰り返してきました。景気動向や物価の変化に連動しながら、特に消費税増税やコロナ禍による在宅勤務の広がりといった社会的要因が1時的な上下動をもたらしています。2025年3月時点での全国平均は2075円と、支出が比較的安定した水準にあることがわかります。

地域別支出の格差とその背景

地域によって支出額に大きな差が見られ、最も高かった広島市では4231円、最も低かった北9州市では804円と5倍以上の開きがあります。

• 高支出地域の特徴（広島・高知・さいたまなど）これらの都市では、都市規模に比して地域特有のファッション志向や地元百貨店・衣料専門店の存在が消費を牽引している可能性があります。高知市において227.3%という異常な増加率が見られたことは、過去に支出が極端に低かった反動や、家計調査対象の世帯構成変化、または局地的なイベント・セールの影響も考えられます。

• 低支出地域の特徴（北9州・和歌山・堺など）これらの地域では、衣料への支出を抑える傾向が見られます。地元経済の停滞、ディスカウントストアやリユース市場の普及、あるいはオンラインでの安価な購入が浸透していることが1因と考えられます。

世代間の消費行動と価値観の違い

若年層（20〜40代）はオンラインショッピングに親しんでおり、価格比較やセール品購入が1般的です。これに対し、中高年層は「良いものを長く着る」志向が強く、品質やブランド重視の傾向があります。世帯のライフステージ（子育て期、老後など）に応じて、購入の目的や頻度も変わっていきます。

また、最近ではSDGs（持続可能な開発目標）への関心から、エシカルファッションや地元産品の購入も選択肢に入りつつあり、世代によって環境意識と支出のバランスが異なります。

直近の増減要因と政策・流通の影響

2024年〜2025年にかけての急激な支出変動には以下の要因が複合的に関わっています：

• 物価上昇（原材料やエネルギー価格の高騰）

• 衣料品の価格改定（特に国産ブランド）

• 店舗型からネット通販への移行加速

• 家計引き締めによる選択的消費の増加

政府の賃上げ要請や各種補助金の動きも、衣料費支出に間接的な影響を及ぼしています。

今後の支出推移予測と消費トレンド

将来的には次のような動きが予想されます：

• 都市間格差の拡大：地方の人口減少が進む1方、大都市ではファッション消費が継続。都市ごとの購買力の差が拡大する可能性があります。

• 中古・レンタル市場の成長： 若年層を中心に、定額制ファッションレンタルやリユース衣料の利用が拡大。

• 機能性・サステナビリティ重視： 単なる安さでなく、機能性や環境配慮といった付加価値のある衣類が選ばれるようになる。

• 季節感の薄まり： 気候変動の影響により、従来の「春・秋の衣替え」に依存しない購入傾向が増加。

まとめと課題

シャツ・セーターに代表される衣料支出は、個々の世帯の価値観と社会構造の変化を映す鏡です。今後の家計調査においても、単なる価格の推移だけでなく、購入動機やチャネル、品質志向の実態を合わせて分析することが求められます。各地域の生活実感を反映した政策立案や企業戦略の材料として、衣料支出のデータ活用は今後も重要性を増していくでしょう。